小説みたいに楽しく読める生態学講義
「小説みたいに楽しく読める⚪︎⚪︎学講義」シリーズの8作目は、生態学だ。
生態学といえばエコロジー、つまり、エコだ。コンビニの袋が有料になったとか、ストローが紙になるとかならないとか、クルマが電動になるとかならないとか、そういう「地球にやさしい」話なのか? 池の水を全部抜いて外来生物を見つける話とは違うのか? 説明しろといわれると困る学問だ。
筆者の専門はクモの生物学だ。しかし、生物とは関係のないフツーの大学で生態学の授業を担当されているらしい。それでも「睡眠医学講義」になってしまわないのだから、きっと説明が上手なんだ。そういうわけで、編集さんから生態学を楽しくという本を書けと、ムチャブリがいったらしい。
カバーのタイトルロゴが丸ゴシックなので、読みやすい範疇なのはわかる(このシリーズはロゴのフォントで難しさがわかるようになっている)。
- 丸ゴシック:生命科学・栄養学・生態学
- 明朝:免疫学・解剖学・脳科学・睡眠医学・生化学
しかし、今回のカバーは、いつもとちょっと違う。
これまでのカバー画は、あれやこれやのキレキレな魑魅魍魎が集まっていたりしてたわけだが、今回は世界に遠近感がある。遠くには高層ビル群が霞み、そこかしこに生き物が暮らし、手前は農村の原風景。なんだかやさしい。題字の枠線は、四隅が「陸・海・空・虫」になっていて、それぞれに生きているような動きがある。
そして筆者の似顔絵。これまでの筆者たちはちゃんとスーツを着てて、『解剖学講義』のL.L.Beanのシャツが例外だったわけだが、『生態学講義』は笠型の帽子(モンベル製との説あり)、トレーナー、軍手である。素晴らしい!






第1章は、生態学とは何か、という話。羊土社のサイトで冒頭をだいぶ読める。
そう多分、レジ袋の話ではないし、池の水は関係なくはないがノリが違う。


最初はちゃんと真面目なノリで話が進む。生態学の「基本の数式」もでてきて、現象をそれでもって裏付けていく。そういえば、ゼブラフィッシュの稚魚の餌のためにゾウリムシを飼っていると、いつのまにか、小さいプランクトンに置き換わってしまったりする。そうか、数式だったか。
しかし、当の筆者にしてからが、数式はわから〜んといっていて、雲行きが怪しい。実際、だんだんと変になってくる。まあ、色々な生き物の関係を話していくので、自然にそうなる。
そして、筆者の専門のクモ。
実は『生態学講義』のイラストは、担当編集さんが描いた。SNSでカワイイ「ひつじ社員」のイラストを描いている「中の人」である。で、そのクモのイラストに「不気味の谷」だと筆者からコメントがついて、描き変えたという。
「不気味の谷」というのは、ロボットやAIをヒトに似せると曰く言い難い違和感があるという、あれだ。普通の人にはクモ自体が不気味なわけで、クモの絵に「不気味の谷」を感じる人はフツウじゃない。そういう人が筆者なんて、素晴らしい。
本書は、文藝春秋の2025年「わたしのベスト3」で、本上まなみさんに選ばれた。「ユーモアたっぷり」との評もさもありなん、ネタフリがすごいのである。
「お金のことがわからない」とくる。きっと、筆者の講義を聴く学生たちも、そのあたりでちょっと目を覚ますに違いない。評者もお金のことはよくわからないし「ふるさと納税」がナゾなんだが、「個体群の成長」とサブタイトルが付いている。サブタイトルの方はなんとかなるかもしれない…
…というふうに、おもしろネタの種明かしが楽しい。というより、人の世のイロイロなことが、生態学でわかった気になれる。『解剖学講義』で「解剖学が世界だ」と言わないでおいてよかったよ。


最後はコメ作り。ソコに生態学そのものを見出す。

巻末には参考文献がある。学術書としての矜持である。

本記事への誌面写真の掲載について、羊土社様より許諾いただきました(2026年3月2日)。転載・直リンクお控えください。