小説みたいに楽しく読める生化学講義

吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京).
小説みたいに楽しく読める生化学講義

小説みたいに楽しく読める生化学講義

吉村成弘
2,479円(12/27 12:53時点)
発売日: 2025/08/10
Amazonの情報を掲載しています

 

生化学の立ち位置が微妙だ。「生命現象を分子のレベルで理解しようとする学問」、「生命現象を化学反応として記述する学問」、「生命を、分子と化学反応の言葉で説明する学問」というように、いいかたはある。では分子生物学との差分はなんだというとよくわからない。『ストライヤー生化学』と『細胞の分子生物学』はどちらも優れたテキストだけれど、そういえば生化学のほうが化学式が多かったなあ。

筆者自身、「命現象を化学構造式や化学反応式で記述する学問」と定めている。

 

はじめに「何かむずかしい、印象のよくない学問かも」[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.2-3]

 

このシリーズのレジェンドを踏まえ、カバーにはいろいろなイラストがある。帯の下にはもっとある。ミトコンドリアのお風呂でおにぎりを食べている。杯を傾けるヒゲのおじさんは誰?

 

帯の下のおにぎり[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). カバー]

 

著者[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). カバー折返し]

 

命現象を化学構造式や化学反応式で記述する」といってもよくわからないかもなので、本書はまず「代謝」にフォーカスしている。

そして初っぱなからそれが「エネルギー変換である」と言い切る。

代謝というといろいろな経路があって、テストにでるもんで暗記するわけだ。Rocheがあらゆる代謝経路を描いたポスター(改訂のため現在公開停止中)を配布し始めたのは、1965年という。印刷物の配布はなくなったが、印刷データをコンパイルするスクリプトがGitHubにあるSigma-AldrichStanford大のもある。それらをみればわかるが、全部の暗記は無理。

それでも主要な代謝経路を、エネルギーで語ると話しがスッキリする。糖質、脂質、アミノ酸の代謝を概観しTCA回路にまとめていく。

化学式はそれなりに出てるわけだけれど、テストを受けるわけでなければ覚えなくてもいい。化学式というよりイラストか模式図だと思って眺めていても、話はわかる。適宜代謝経路が概略にまとめられるので、そこに付箋を貼っておく(例えば図5−1)。

なお、評者は生化学の問題を出題したことがないので、生化学を履修中の学生さんは真に受けないように

 

代謝とはエネルギー変換である[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.10-11]

 

タンパク質、糖質、脂質のエネルギーがTCA回路に集約されるので…(後述)[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.52-53]

 

デンプンが甘くなる仕組みとか、身近な疑問を生化学を使って説明する。

糖質を取り過ぎると太るのはなぜかを、本の前半ででてきたTCA回路を使って説明してあるのはなるほどだった。基礎の応用である。

バランスよく食べないといけないのはなぜかも、生化学で説明される。

消化の話は、シリーズの前作『小説みたいに楽しく読める栄養学講義』とも連続する

筋肉の基礎代謝量の見積からダイエットにおける筋トレの意義を根拠づける。羊土社の筋トレさんたちが僥倖に胸筋を震わせたに違いない。

 

身近な生化学[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.66-67]

 

糖質が多すぎると、エネルギー過剰になり、TCA回路が停滞し、脂肪酸合成へ[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.126-127]

 

肉だけでなく野菜も食べないと…のはなし[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.144-145]

 

消化[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.114-115]

 

痩せるのには筋トレ[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.192-193]

 

分子の話として、ヘモグロビンのアロステリック効果や、筋収縮におけるミオシンの首振りがあり、ちょっと懐かしい。シグナル伝達の話も少しある。

DNA複製の岡崎フラグメントなど、生化学から分子生物学が枝分かれするころの話もある。

 

筋収縮[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.226-227]

 

分子生物学[吉村成弘. 2025. 小説みたいに楽しく読める生化学講義. 羊土社(東京). p.272-273]

 

『生命科学』『免疫学』『解剖学』『神経科学』『睡眠医学』『栄養学』『生化学』とつづいている「小説みたいに楽しく読める」シリーズ。世の中をそれぞれの学問のみかたでとらえられていて、それぞれ良く、合わせて読むともっといい。つぎは『生態学』なんで、飛び立つドローンの映像みたいになるのかも。

 

本記事への『小説みたいに楽しく読める生化学講義』紙面の写真の使用について、羊土社様より許諾いただいています(2025/12/25)。転載・直リンクはお控えください