小説みたいに楽しく読める栄養学講義

小説みたいに楽しく読める栄養学講義

小説みたいに楽しく読める栄養学講義

中村 丁次
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おいしい給食」は、1980年代の中学校を舞台にした学園グルメコメディである。主人公の甘利田幸男(市原隼人)は、給食をこよなく愛する数学教師で、給食を食べることが一日の最大の楽しみという「給食絶対主義者」だ。彼は、給食をより美味しく食べる方法を日々探求する。舞台を変えて、シーズン2、シーズン3と続き、それぞれの後には映画作品も製作された。1980年代は学校給食のパン中心のメニューに米食が取り入れられる時期だ。農林水産省「昭和から令和まで、年代別にみる学校給食の変遷」でもその変化を見ることができる。

 

 

小説みたいに楽しく読める栄養学講義』の話は、「おいしい給食」より1世代前、1960年代にはじまる(*)。戦後の食料難を米国からの物資でしのぎ、小中学校で広く給食が行き渡ったころのこと、「ご飯を食べると馬鹿になる」という言説がはやった。給食をきっかけに食事の欧米化が始まったコンプレックスもあったかもしれないが、栄養について科学的に考察できなかったせいもあるだろう。

*戦後初期の給食のネタは『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』にでてくる。

 

 

まあ、こんな昔話もバカにはできない。現代でも、グルテンフリーとか、糖質フリーとか、オーガニックとか、ビーガンとか、カタカナ語が増えただけだ。怪しげな話にとらわれないよう、勉強しよう。

さて本書『栄養学講義』は、「小説みたいに楽しく読める」シリーズの5冊目だ。著者は栄養学の重鎮。前著『楽しくわかる栄養学』をリブランドし、文体を常体から敬体に変え、改訂した。本文はクリーム色の用紙に縦書きで、小説の本のように仕立てられている。カバーデザインが他と揃えられ、棚にいっしょに並べると、いっそう存在感が増す。カバーのフォントから、易しめの本だと想像できる。(このシリーズでは、易しめの本に丸ゴシック、難しめの本に明朝・角ゴシックが使われている。)

 

 

著者
前著のリブランド作品

 

アートが楽しい。枠線は本書専用で、いろいろな食品が配されている。オビの下にはたくさんのイラストがある。扉絵などから採られたものだ。同シリーズの他の本とテイストが異なるのは、前著を引き継いでいるからだろう。そんななかでも他の本と共通点を探したりできる。

 

オビの下にたくさんのイラストが

 

医師も栄養指導をしたり、病院食の指示をしたりしないといけない。生化学や生理学で、いろいろな栄養素の代謝や機能、欠乏症を学ぶ。疾患の勉強の中で、腎臓病糖尿病などの食事療法も学ぶ。しかしそれらをまとまったひとつの科目「栄養学」として学ぶことはない。管理栄養士の養成やその基礎研究のための部局を持つ医学部も限定的だ(徳島大学医学部医科栄養学科藤田医科大学臨床栄養学)。

自分の知識が散らばっていると、指導するにも説得力に欠けるというものだ。覚えたことを整理するのに、本書は簡単に読めてよさそうだ。

  • はじめに
  • 第1章 栄養学とは
  • 第2章 栄養素の種類と働き
  • 第3章 栄養素の生理
  • 第4章 エネルギー代謝
  • 第5章 ライフステージと栄養
  • 第6章 傷病者の栄養ケア・特別用途食品と保健機能食品
  • 第7章 健康づくりのこれまでとこれから
  • おわりに:超高齢社会と環境問題、カギは栄養

内容をみていこう。

最初はそもそも「栄養学」とは何で、それが扱う「栄養」とは何だ、というところから。

ナニガシを食べるとからだにいいとか、アレコレはからだに毒だとか、そういう養生訓はいろいろな国にある。Amazonをみれば多量にそういう本がある

栄養学がそれとちがうのは、化学や医学にバックアップされ、科学的に構築された学問であることだ。学問の対象である栄養も、単に化学物質としてではなく、農学やら生態学やらをも援用する栄養学としての見方、捉え方がある。改めてこう、本書でキチンと整理されてみると、なるほどそうかとなる。どういう感想なんだか伝わらないかもしれないが、本を読んでください。

 

栄養学とはなにか、から
栄養素とは

 

総論の後は各論である。それぞれの栄養素についてだ。それがどういうものか、どのくらい摂取するなのか、どういう働きがあるのか、また、それらが少なかったり多すぎたりするとどういうことになるのか、個々に論じられながらも、全体が概観されていく。そうしていろいろな栄養素の関わりを知ると、なんでもバランスよく食べないとね、という大ざっぱな話に根拠ができる。

少し読み進めば、たとえば糖質と脂質とビタミンB1を三題ばなしで捉えてみたりできるだろう。ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変換するのに重要だ。解糖系とクエン酸回路の補酵素である。ビタミンB1欠乏症、昔でいえば脚気は、日本人が長く患った。精米によって糠に含まれるビタミンB1を捨てていたせいだ。脂質も重要なエネルギー源だ。その代謝経路にビタミンB1が関わらないので、ビタミンB1の節約になる。過度な脂質制限をして野菜や肉をたべないでお米が好きというのはいけないと、職場の朝礼の訓示めいてみたり。

 

各栄養素の働きと、欠乏症・過剰症

 

後半は、ライフステージごとの栄養から、傷病者の栄養まで。医療との関わりも多いところだ。

学童期であれば、「学校給食は、家庭での食事を栄養補給の観点から保管すると同時に、栄養の意義、作法、さらに食べ方を学習します(p.148)」というように、「おいしい給食」とともに考えを深められる。

高齢者の栄養も見逃せない。寿命の延長に伴い、栄養の問題も顕在化しているから。

栄養療法、術後回復期の栄養、がん患者の栄養など、医科に必須のはなしだ。

 

現代の問題としての高齢者の栄養
おわりに、も高齢者で締める

 

本書の学びを医学科での学習に位置づけていきたい。たとえばビタミンでいえば、ビタミンB1欠乏症の文脈に続いて、コルサコフ症候群はおさえておきたい。コルサコフ症候群は作話が特徴の記憶障害で、試験で問われることが少なくない。新生児へのK2シロップでメレナを防ぐというストーリーも、最近SNSでバズっていた。

紙面の写真の本稿への使用について羊土社様より許諾いただきました(2025年2月26日)。