ChatGPT翻訳術・医師による医師のためのChatGPT入門・医療者のためのChatGPT
ChatGPT関連書籍の出版ブーム
ChatGPTの本の出版が、かつてのタピオカミルクティーブームのように盛んだ。注目度が高いことに加えて、AIの進化が速く、情報がすぐに陳腐化してしまうためだろう。
ここでは、3冊の書籍を紹介する。同じディスプレイ上で本を参照しながらChatGPTを使えるように、いずれも電子版を購入した。
ChatGPT翻訳術(Kindle版)
医学研究の原著論文はほとんどが英語で発表される。つまり、医学研究に関わる人々にとって英語は避けられない壁だ。
以前からGoogle翻訳やDeepLといった機械翻訳はあったが、翻訳の正確さは7割程度と言われ、流暢さには限界があった。しかし、ChatGPTは異なる。英文が流暢で、目的やレベルに応じた翻訳が可能だ。従来は翻訳サービスや校閲サービスを利用していた人でも、ChatGPTを代用できるかもしれない。
本書は、ChatGPTに和文英訳をさせるためのガイドだ。筆者は、日本語から英語に翻訳する作業を3つの工程に分ける。ここにChatGPTが組み入れられた。筆者は翻訳のプロで大学教授だ。これらの工程で肝要なプロのスキルが何かも議論される(後述)。
- 前工程:原文を整え、翻訳の仕様をきめる
- 制作工程:翻訳する
- 後工程:誤訳や適切さをチェックし校閲する
こうした工程にChatGPTを使うには、適切な指示が肝腎だ。本書では、英語のレベル、目的、フォーマットを指定して日本語から英語に翻訳したり、簡単な日本語文を膨らませて英文を生成したりするためのさまざまなプロンプトを、順次構成していく。
プロンプトとは、ChatGPTなどの生成AIに入力する指示のことだ。この指示の質によって、生成される結果の効率や品質が左右される。上手なプロンプトを考案するプロがいるほど、AIの活用には重要なスキルだ。
実は特別工夫せず「この日本語を英語に翻訳して」くらいでも、ChatGPTは正しく翻訳してくれる。しかし、それが場面に合っているかとか、ネイティブに読みやすいかとなると、改善の余地のあることが多い。
ChatGPTは、初心者のクライアントにはそれなりの答えで無難に済ませ、うるさ型のクライアントには本気を出す、と考えたらいいかもしれない。
とはいえ、そういうプロンプトの公式をChatGPTが規定しているわけではない。先人たちがいろいろ試行錯誤して得た成功例である。本書にはそうしたプロンプトをダウンロードするためのシリアルコードが付属している。
ChatGPTの有料版だとユーザーの使用履歴を学習していくので、AIの応答精度が向上する。たとえば、論文用に英作文を依頼することが多い場合、和文を入力すれば英文が、英文を入力すれば校閲された英文が出力されるというように、以心伝心に近づいていく。
しかし、AIが学習してくれるとしても、最初のプロンプトで初期状態をキメておくのか重要だ。本書のプロンプトがそこで役立つ。
試しに本書のプロンプトを参考にして、『小説みたいに楽しく読める解剖学講義』の原稿を英訳してみよう。有料版のChatGPT4oを使う。原文のタイポは華麗にスルーして、いい感じに英訳してくれた。「end up …ing」など、知っててもなかなか上手には使えない。
翻訳の目的:解剖学をやさしく解説した読み物
対象読者:高校生以上の一般の読者と医療関係の学生
【原文】新宿のタカノフルーツパーラーのプロによると、おいしいスイカは叩くと高い音がするのでわかる、といいます。さすがですね、共鳴音です。群馬県の太田市藪塚は小玉スイカの産地で、春から夏にかけて「藪塚こだま西瓜」というブランドのスイカが出荷されます。切らずに冷蔵庫に入るので便利です。旬になると、ツルの切り口がまだ濡れている新鮮なのを地元のJAの売店とかで買ってきます。果肉がミッチリ詰まっていてて、包丁を少し入れただけで、パリッと割れていきます。よく冷やすと、とても甘くて、ほんのり酸味も感じて、おいしいんですよね。皮の白いところまで甘いです…あ、すいません、スイカを打診してみるまえにたべちゃってました。
According to the professionals at Shinjuku’s Takano Fruit Parlor, you can tell a delicious watermelon by the high-pitched sound it makes when tapped. This resonance sound is a true indicator of quality. Yabuzuka in Ota City, Gunma Prefecture, is known for its small watermelons, which are shipped under the brand name “Yabuzuka Kodama Watermelon” from spring to summer. These watermelons are convenient because they fit in the refrigerator without being cut. When they are in season, you can buy fresh ones with still-moist vine ends from local JA stores. The flesh is densely packed, and it cracks open with just a small cut from a knife. When well-chilled, they are very sweet with a hint of tartness, making them incredibly delicious. Even the white part of the rind is sweet. Oh, I apologize, I ended up eating the watermelon before checking it by tapping.
メタ言語能力の重要性
本書の最も重要なメッセージの一つは、流暢な英文を生成するためには「メタ言語能力」が必要であるということだ。つまり、さまざまな言い回しやニュアンスの違いに気づく力だ。
これには、それなりに英語がわからないといけないわけで、英語が上手な人ほどAIも上手に使えることになる。
そういうわけで、AIがあっても英語の勉強がいらなくなるわけではない。医学英語論文の書き方の本も学んでおくとよいし、査読がどのようになされるかも知っておくと良い。
本書の最後には、AIの時代に英語を学ぶことや翻訳の仕事の意義が議論される。生物学的ヒトである自分の在り方を、AIを利用しながらも内省しておきたい。
(本稿における紙面の写真の使用について、アルク様および著者様より許諾いただきました。2024年6月13日)
医師による医師のためのChatGPT入門(医書.jp版)
本書は、ChatGTPを医学研究に利用することにフォーカスしている。そういう話題は文章が堅くなりがちだけれど、自称Z世代でITが嫌いな研修医と筆者のアバターとの掛け合いになっているので気軽に読める。出版社のサイトで一部のページを立ち読みできる。
最初はChatGPTの無料版で試している。院内のプレゼンの内容を作成したり、論文の読解をAIに手伝わせたりたりしてする。
用途が専門的になると、有料版が必要になる。日本語の原稿やちょっとした情報を与えて、イントロなど論文のパーツを作成してもらうことも可能だ。
ここでも、「メタ言語能力」と同義の話が出てくる。自分では「思いつかないような(上手な)英文」になったとの研修医に対して、筆者(アバターの)は、それが「学術論文としてふさわしいかどうかは個人の判断」とし、そういうセンスは「たくさんの論文を読んで自分でも書いていくうちに身につく」とする。
やはり、使用者側にスキルがなければ、AIも活用できない。
本書にもプロンプト集をダウンロードできるコードが付属している。それを参考にやってみよう。
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新宿のタカノフルーツパーラーのプロによると、おいしいスイカは叩くと高い音がするのでわかる、といいます。さすがですね、共鳴音です。群馬県の太田市藪塚は小玉スイカの産地で、春から夏にかけて「藪塚こだま西瓜」というブランドのスイカが出荷されます。切らずに冷蔵庫に入るので便利です。旬になると、ツルの切り口がまだ濡れている新鮮なのを地元のJAの売店とかで買ってきます。果肉がミッチリ詰まっていてて、包丁を少し入れただけで、パリッと割れていきます。よく冷やすと、とても甘くて、ほんのり酸味も感じて、おいしいんですよね。皮の白いところまで甘いです…あ、すいません、スイカを打診してみるまえにたべちゃってました。
群馬県の太田市藪塚。この地は小玉スイカの名産地で、春から夏にかけて「藪塚こだま西瓜」というブランド名で出荷される。その小さなスイカは冷蔵庫にもすっぽりと収まり、便利である。旬の時期になると、ツルの切り口がまだ湿った新鮮なスイカが地元のJAの売店で手に入る。果肉がぎっしりと詰まっており、包丁を少し入れただけで、パリッと爽快な音を立てて割れていく。
暑い夏の日、家の縁側でよく冷えたスイカを手に取り、一口頬張ると、その甘さが口いっぱいに広がる。ほんのりとした酸味が絶妙なバランスを保ち、夏の夕暮れの涼しさとともに心を満たしていく。その甘さは皮の白い部分にまで及び、最後の一口まで楽しむことができる。
あの日、友達と一緒に買いに行ったスイカ。ツルの切り口を見て、新鮮さを確かめ、興奮しながら持ち帰った。冷蔵庫に入れて冷やしている間、期待に胸を膨らませた。包丁を入れるときのドキドキ、そしてパリッという音。その瞬間、全ての思い出が一気に蘇り、我慢できずに一口食べてしまった。
スイカの瑞々しさに舌鼓を打ちながら、友達と笑い合った夏の日々。青春の甘酸っぱい記憶と共に、スイカの甘さが心に染み渡る。そんなひとときが、いつまでも心に残る大切な宝物だ。
確かに、芥川賞作品にも使われるわけだ。
(本稿の紙面画像は、本書の立ち読みで公開されているページから選んで掲載しました)
医療者のためのChatGPT(M3版)
本書は、医学関係の成書では最初のChatGPT本だ。表紙の白衣を着たビックリしているネコも生成AIによるものだ。著者ら自身がChatGPTに驚いたことを表現している。
この書籍には、いろいろなプロンプトの例が掲載されている。報告書や文書作成に使える方法など、すぐに役立つ内容が満載だ。臨床実習に来た学生の評価書を作成する事例もあり、いろいろな実習を担当する基礎医学教員も応用できそうだ。
大規模言語モデルというのだから、答えは文章だけかと思っていた。ところが本書では、ChatGPTにグラフを描かせたりもしている。筆者自身が述べているように、グラフ作成にはExcelのほうが適しているが、新しい技術に慣れるためには、いろいろ試してみることが重要だ。
当直表を作らせるなんていうのも、思いもよらなかった利用法だが、これは実用になりそうだ。
自己学習や論文執筆への利用法も実用的だ。校正の提案をもらったり、完成した本文から魅力的なアブストラクトを作成したり、発案から投稿、その後のやり取りまで各ステップにChatGPTを活用する事例が紹介されている。
なお、本書で言及されているAdvanced Data Analysisは、現在は拡張機能やベータ機能ではなく、標準的に実装されて設定なしで使える。フローチャート作成に使われていたWhimsical Diagramsも使い方が変更されている。「GPTを探す」でWhimsical Diagramsを付け加える。最初のプロンプトで、どんなダイアグラムができるか訊ねれば、例を挙げて教えてくれる。
本書にはプロンプトのダウンロードがない。プロンプトの再利用には打ち込みが必要だ。
(新興医学出版社様からの許諾により表紙画像をアイキャッチ画像に使用しました。2024年6月11日)
比較表
3冊の内容を比べてみると、重複が少ない。揃えれば無敵に。
ChatGPT翻訳術 | 医師による医師のためのChatGPT入門 | 医療者のためのChatGPT | |
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ChatGPT有料版 | ✓ | ✓ | ✓ |
PerPlexity | ✓ | ||
DeepL | ✓ | ✓ | |
Liner AI | ✓ | ||
Claude | ✓ | ||
Google Chrome拡張機能 | ✓ | ||
和文英訳 | ✓ | ✓ | |
用途別英訳 | ✓ | ||
英訳文・英文の校閲 | ✓ | ✓ | |
英文メールの生成 | ✓ | ||
メールの生成 | ✓ | ||
学会抄録の生成 | ✓ | ||
和文校閲 | ✓ | ||
YouTubeの要約 | ✓ | ||
インパクトファクター検索 | ✓ | ||
画像生成 | ✓ | ||
ガイドラインの解説 | ✓ | ||
論文の解説 | ✓ | ||
診断のサポート | ✓ | ||
併用禁忌のチェック | ✓ | ||
紹介状などの文書作成 | ✓ | ||
論文検索 | ✓ | ||
スライド作成 | ✓ | ||
論文作成 | ✓ | ||
深津式プロンプト | ✓ | ||
業務メール・クレーム対応 | ✓ | ||
標語 | ✓ | ||
インシデントレポート | ✓ | ||
評価表 | ✓ | ||
フローチャート | ✓ | ||
グラフ | ✓ | ✓ | |
当直表 | ✓ | ||
自己学習 | ✓ | ✓ | |
研究のアイディア | ✓ | ✓ | |
リサーチクエスチョン | ✓ | ||
研究計画書 | ✓ | ||
倫理申請 | ✓ | ||
データ解析 | ✓ | ||
論文生成 | ✓ | ||
アブストラクトの生成 | ✓ | ||
カバーレターの生成 | ✓ | ||
査読対応 | ✓ | ||
論文査読 | ✓ |
プライバシーとセキュリティに注意!
ChatGPTに個人情報を入力することは控える。
一般に明かせない秘密をChatGPTで扱うときは、データのセキュリティーを保つ設定をしておく。この設定をすると、入力された内容はユーザー用の記憶領域に留まり、全体の学習には使われない。この設定は、ChatGPTにユーザー登録すると使えるようになる(無料版でも使える)。
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