よくわかる摂食・嚥下のメカニズム第2版
咀嚼と嚥下のしくみを復習しようと、ネタを探していたときに見つけた本。しくみがわかりやすい模式図と、その根拠になるエックス線透視図が載っているのが特徴。
老年期の医療のキモのひとつは、栄養管理だ。老化や神経障害によって嚥下機能が衰えると、たくさんは食べられないし、ムリに食べると誤嚥してしまう。経口摂食ができないとなれば、経鼻栄養、中心静脈栄養、胃瘻といった代替手段はある。とはいえ、経口摂食ができるのに越したことはない。
経口摂食の維持には、咀嚼や嚥下の訓練をすることになるけれども、医療者にはそもそもそれがどのような仕組みなのか、理解しておく必要がある。
本書は、運動の基礎知識に始まり、咀嚼や嚥下の解剖生理、その病理へと、順に話が進む。医師や看護師のような専門職でなくても理解しやすいように計画されている。
解剖学や生理学の教科書にも、咀嚼から嚥下までのメカニズムは載っている。しかし、立体的なイメージとして理解できる資料があるかかというと、実は心許ないことが多い。文章や模式図はあっても、RAW DATAが省略されているからかもしれない。
本書には、咀嚼や嚥下に関する模式図だけでなく、それに対応するエックス線透視の画像がある。そのために解説に納得感ある。乳児の透視画像は、論文を検索してもとても少なく、貴重だ。
実は、このあたりは、意外と空想的な言説が信じられていたりするので要注意なのだ。「赤ちゃんは呼吸しながらおっぱいを飲める」という話は、解剖学のテキストにもみかけることがある。
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Vilensky, Joel A., Patricia Henton, and Carlos A. Suárez‐Quian. 2022. “Infants Can Breathe and Swallow at the Same Time?” Clinical Anatomy 35 (2): 174–77. https://doi.org/10.1002/ca.23799.
模式図も、解剖のテキストやアトラスには見かけないような視点で描かれていて、役に立つ。喉頭蓋から梨状窩にかけてを斜め後ろから描いた立体図がとくにいい。
喉頭蓋から梨状窩までの食塊の流れは、ふつうの解剖学や生理学のテキストではいまひとつ理解しにくいポイントだ。そもそも、梨状窩がどこのことなのか、わからない。
解剖実習でも、そのつもりで観察しないと認識しがたいのだ。咽頭から食道にかけての後壁を正中で切り開いて中を観察するけれども、壁を平らに拡げてしまうと、梨状窩も拡がってよくわからなくなる。そっと壁を拡げて覗いてみたり、喉頭鏡で上から声帯をでみる方向からみたり、喉頭蓋を指で押し下げてみたりして、食物の流れを理解しよう。
医療機関によっては、経鼻内視鏡による嚥下の評価方法が使われる(fibreoptic endoscopic evaluation of swallowing; FEES)。嚥下の様子を実際に目視できる。YouTubeにいくつかビデオが見つかるので、合わせてみてみよう。
紙面を撮影した画像は医歯薬出版様より許諾を得て掲載しています(2024/1/10)。
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