心臓外科医が描いた正しい心臓解剖図 増訂版

 

2014年刊の『正しい心臓解剖図』の増補改訂版。

 

まえがき:自分で新たに解剖した

 

心臓外科医である筆者自身が解剖図を描いている。ボールペン、水彩、色鉛筆で描かれ、水木しげる氏の漫画にも似た、おどろおどろしい感じのタッチだ。彩色は概ねカラーコードに沿っているようだ(右房が青、左房が紫、心室は赤紫、大動脈は赤、肺動脈は黄土色、など)。

初版の図は樹脂含浸標本ひとつをいろいろに描いた図が使われていた。そのために、その標本固有の形態をどの図も継承していた。この増訂では、筆者が実際に新たに心臓を解剖し、描いた図が加わっている。第3章がそうした図から構成されている。

断続的に雑誌に掲載された連載を元に構成されていて、図だけでなく「語り」も多い。

もくじ:

  • 序章 臨床に役立てるために
  • 第1章 心臓透視解剖図
  • 第2章 心臓断面詳細図
  • 第3章前編 新しい心臓解剖図
  • 第3章後編 新しい心臓解剖図
  • 第4章 手術図・心臓の図を描くための心臓構造解剖学

 

序章は心臓の形態の総論で、発生学も含む。

 

序章から、心臓の発生

 

第1章と第2章は、初版から継承された図が使われている。第1章は透視図。

心臓の形は立体的で、流路がいろいろに交差していて、複雑だ。実物の心臓を手に取りながら観察したとしても、左心房が左側ではなく背側にあるなど、見どころを押さえながら形を追わないと、迷子になってしまう。

本書の図はそれを透視図で表現し、内部や反対側の構造と手前に見える構造とを関連付けて見られるようにしてある。心臓自体を見たことがなく、初見でこれらの図をみても、実際にはなかなか形をとらえにくいのかもしれない。しかし、いちどでも心臓を解剖したことがあれば、じっくり図をみてなるほどと思うことができるだろう。

まあ、19ページ図2の心臓の「下面」の図はちょっと背側斜め下からみてるよねと気づいたりもするわけだが、そのように正しく判断できるだけの正確な描写がなされているということでもある。

 

心臓の背面の透視図。大動脈弁の一部が右肺動脈内の構造のように見えてしまっている

 

第2章は断面図。エコーやMRで使われる断面が描かれている。どの向きの断面か、人体の図で示されている。標本を解剖アトラス的な向きで描いた図には、エコーで画面上でみる向きの図が添えられている。

 

四腔像

 

第3章は、新たに解剖して描かれた図。それぞれにテーマが決められている。前半は正常解剖、後半は病理解剖。

房室口まわりの刺激伝導系の経路の図など、専門書でないとなかなか見当たらないのもある。実際に複数の標本を解剖しているので、個体差にも言及している。

病理解剖では、肥大した心臓なども描かれている。本書の図にはスケールが全く見当たらない。正常な心臓なら大きさはおおむね決まっているが、病理解剖にはスケールがあった方がよかった。

 

房室口まわりの刺激伝導系の経路

 

拡張型心筋症と肥大型心筋症。

 

第4章は、オペレコの図と、その他いろいろのイラスト、プラス、筆者の随想。最後のページに著者が絵を描いているアクションフォトがある。ネッター解剖学アトラスのネッター氏の肖像みたいなものだろう。

 

オペレコ

 

イラストと著者