ReadCube PapersとMendeley
何か科学的な事柄について、だれか研究したり調べたりしていないか、論文を当たってみるというのは、アカデミアなりメディカルなりの場所にいると機会があるだろう。
医学部の学部生なら、文献を自分で探すことは少ないかもしれない。しかし専門の勉強が進んでくると、だんだんと教科書らしい本がなくなってくる。あってもニッチで高価でちょっと古かったりする。そろそろ、専門誌の特集記事を読んだり、総説で勉強したり、原著論文を当たったりすることになる。
そうこうしていると、みつけた文献がたまってきて、ダウンロードしたPDFや印刷した紙束の整理が難しくなってくる。そういうときに使うのが「リファレンス・マネージャー」という範疇のソフトウエアだ。文献にまつわるいろいろなことをサポートする機能がある(「☑︎」はどのソフトウエアにも共通する基本的な機能):
- 文献を検索する☑︎
- 文献をライブラリとして整理する☑︎
- 論文の参考文献のリストを自動的に作成する☑︎
- PDFを自動的にダウンロードする
- 他でダウンロードしたPDFをドラッグ・アンド・ドロップすると、自動的に書誌情報を付加する
- PDFを読んでメモしたりマーカーを引く
- ある文献を引用している他の文献を自動的に検索する
- ライブラリをクラウドに保存し、複数の端末で利用する
- ある文献に関連する他の文献をみつける
- ブラウザでみつけた文献をその場でライブラリにインポートする
リファレンス・マネージャーはたくさんあって、選択が難しい。一度使い始めてしまうと、ライブラリを他のに移行するのは手間がかかるか、不完全にしかできないか、不可能だ。無料のと有料のがあり、有料だからよいとも限らないし、無料でよいともいえない。考え方を整理してみよう。
COI:評者はReadCube Papersのユーザーなのでバイアスは否めない。旧PapersからReadCube Papersへの移行に際し、Mendeley、本学に機関契約のあるEndNoteと比較検討して決めた。EndNoteをバージョン1から4まで使っていたことがあり、旧Papersバージョン1のときに移行した。
主なリファレンス・マネージャーの特徴を調べる
ググればわかる。ここでは、ReadCube PapersとMendeleyを主に検討する。いずれも、ライブラリがクラウドに置かれ、それをブラウザか専用のアプリでアクセスして使う。主要な処理がクラウド側で行われる。運営している会社の持っているビッグデータやサービスとも連携されているので、スタンドアロンのアプリだけでは難しいこともできる。
ReadCube Papers
Papersはもと、2人のバイオ系Ph.D.学生によって制作され、Mekentosj社からリリースされた。後にSpringer社がPapersを買収した。続いてクラウドベースのリファレンス・マネージャーReadCubeを運用していたReadCube社がPapersを買収し、GUIなどをReadCubeにインテグレートしてできたのがReadCube Papers。クラウドベースで、ブラウザまたは専用のアプリで使う。
(Mekentosj社はNucleobytesと社名変更し存続している)
旧Papersは、たくさんの論文を読んでいくのをやりやすいように考えられて作られていた。ReadCube Papersはその特徴を(全部ではないにしろ)引き継いでいる。
サブスクリプション形式の課金制で、容量制限はない。無料のお試し期間(30日間)がある。学生や教育機関、旧Papersユーザにはディスカウントがある。もとのPapersが売り切りだったので、サブスクリプションになったのを敬遠する向きもある。最初のReadCube Papersはまだ貧弱だったが、現在は改善が進み、クラウドならではの機能が増えた。
ReadCube社は、Springer Natures社やWiley社の論文シェア技術の技術基盤も提供している。ReadCube Papersはその恩恵を受けている。
特徴的な機能
- 文献を検索すると、自動的にPDFを探してダウンロードしてくれる
- ブラウザでみつけた文献をインポートできる
- PDFをドラッグ・アンド・ドロップすると、自動的に書誌情報を付加してくれる:遅いこともあるが、日本語の文献でも見つかることが多い
- PDFのプレビュー表示ができる
- PDFビューア内蔵で、マーカーを引いたり書き込んだりできる
- ある文献を引用している他の文献のリスト、引用部分のプレビューをみられる(メトリクス)
- 手持ちの文献のリストをもとに、内容の関連性のある他の文献をレコメンドしてくれる
- ブラウザでアクセスして使える
- macOS, iOS, iPadOS, Windows, Androidの専用アプリがある
- ライブラリをインポート・エクスポートできる他のリファレンス・マネージャーが多い(Mendeley、Endnoteなど)
Mendeley
Mendeleyは、Mendeley社によって作られたクラウドベースのリファレンス・マネージャーで、後にElsevier社がMendeley社ごと買収した。ブラウザまたは専用のアプリで使う。
クラウド上の占有スペースによって価格が変わる。2GBまでは無料、それ以上は有料のサブスクリプション。機関契約もあって、各ユーザは無料で使える。
最近SNS機能やモバイル版アプリを止めるなど、運営がまだ安定していないかもしれない。
特徴的な機能
- 文献の検索の機能は含まれない。検索にはブラウザを使い、そこからライブラリにインポートする。このとき自動的にPDFを探してダウンロードしてくれる
- PDFをドラッグ・アンド・ドロップすると、自動的に書誌情報を付加してくれる:ほぼ一瞬だが、日本語の文献はみつからない
- PDFビューア内蔵で、マーカーを引ける
- ブラウザまたはデスクトップ版アプリで使う(モバイル版は2021年にディスコン)
- ライブラリのエクスポートはできるが、インポートはできない
機関契約を確認する
ReadCube PapersとMendeleyはいずれも、機関契約も提供している。所属する機関で契約していれば、無料で使える。研究室内でライブラリを共有している場合は、それに参加することになるから選択はそれ一択になる。
しかし、卒業や異動すると自分のライブラリが使えなくなるかもしれない。マイグレーションの方法は確認しておくこと。
ライブラリの移行方法を確認する
それぞれのリファレンス・マネージャーのサイトに、マイグレーションの方法の説明がある。メジャーなリファレンス・マネージャーの間なら、何らかの方法で移行できるはず。ただし、ライブラリの内容を完全に移行できるかどうかは別。
- 文献リストは、少なくとも完全に移行できないと困る
- PDFも同時に移行できないと困る
- 文献に入れたメモやラベルも移行できるか
旧Papersから現ReadCube Papersはほぼ完全に移行できるが、他社のリファレンス・マネージャーの間は文献リストだけしか移せないことが多い。
ストラテジー案
機関契約がないか、あっても希望のアプリではない場合で考えよう。
- 料金を調べ、ディスカウントがないかを確認し、有料になるかもしれないことを覚悟する
- 無料に留まるならここで抜けて他を当たる
- Mendeleyを個人の無料アカウントで始める
- 「リファレンス・マネージャー」がどういうものかわかってきたら、集中して試す時間を作って、ReadCube Papersの無料お試しを始める。このとき、Mendeleyからのインポート機能を試す
- iPadでも試す(iPhone、Androidも)
- PDFに書き込みをしてみる
- メトリクスを試す
- レコメンドを試す
- Mendeleyに戻るか、ReadCube Papersにするか決める
- Mendeleyに戻る場合、ライブラリが2GBを越えるまでは無料で使う。有料になりそうなときに、Mendeleyに課金するか、ReadCube Papersに移るかを改めて決める(その頃には無料お試し期間は終わっているはず)
- ReadCube Papersで続ける場合、ディスカウントの手続きを抜かりなく準備する
他のリファレンス・マネージャーを使っている場合
すでに何らかのリファレンス・マネージャーを使っている場合で考える。
- 旧Papersなら、ReadCube Papersに移行する。移行には旧Papersが必要なので、旧Papersが現OSで使える内に作業しないと、移行できなくなる
- Mendeleyで大丈夫なら、そのままで
- スタンドアロンのリファレンス・マネージャーを使っているなら、Mendeleyを試す。クラウドベースのリファレンス・マネージャーがどんなものか、感じを掴んでから考える
- 課金を避けるのであれば、無料のアプリや買い切りのアプリを使う。このとき、インポート、エクスポートの確認は怠らない
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