誤嚥性肺炎 50の疑問に答えます

誤嚥性肺炎 50の疑問に答えます

誤嚥性肺炎 50の疑問に答えます

吉松 由貴, 山入 和志
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医学部・歯学部の解剖学実習で解剖する遺体は、ほとんど(もし「全て」が不正確ならだが)篤志献体である。

献体を大学でお引き受けするとき、いろいろな事務書類といっしょに、医師の死亡診断書のコピーをいただく。高齢化社会を反映してか、多くは高齢である。直接死因欄には肺炎、あるいは誤嚥性肺炎と記されていることが少なくない。本学では献体を受け取るとCT撮影し、それを専門医が読影している。そのCT像にも、肺の浸潤、気管支内の貯留物、無気肺など、誤嚥性肺炎と矛盾しない影をみることが多い。

「誤嚥性肺炎」という字面だけだと、なにか飲食物を誤って気道に吸い込んでしまい、それがもとで肺のトラブルが生じたのだろうと理解される。しかし、若く健康なひと(つまり解剖学履修生)がそう理解するのと、実際の現実の高齢患者の病態とは、かなりかけ離れているのではないか。

慌てて飲み食いして咳き込むことは、若くても起こる。そもそも、咽頭・喉頭から気管・食道にかけての流路が前後にクロスしていて、構造上誤嚥が生じやすい。嚥下時には、軟口蓋、喉頭、喉頭蓋を上げ下げし、流路をスイッチしてやり過ごしているのである。

このことはヒトの年代によらない。1970年代からの「都市伝説」で、✌️乳児のころは喉頭の位置が高く、飲み込んだ乳汁が喉頭の両側に逸れて流れ落ちるので、おっぱいを飲みながら呼吸を同時にすることができる✌️というのがある。しかし実際にはそれが証明されたことはないとされる。

  • Joel A. Vilensky, Patricia Henton, Carlos A. 2021. Suárez-Quian. Infants can breathe and swallow at the same time? Clinical Anatomy, 35(2): 174-7. https://doi.org/10.1002/ca.23799

Diagram showing the position of the larynx. Wikimedia

 

たとえ誤嚥しても咳と気管支粘膜の働きによって異物はすぐに排出され、何事もなく済む。それが、若く健康な人が体験し理解する誤嚥だ。

本書で理解されるのは、様子が違う。老化が進んだり、中枢の障害が生じたり、長期臥床で廃用になったりすると、咽頭や喉頭の働きが弱まり、それをサポートする運動器も弱くなる。空気と飲食物との流路の切り替えが働きにくくなり、誤嚥が生じやすくなる。麻痺や筋力低下で咳で吐き出すのも難しくなる。また、括約筋や消化管の働きが弱まるなどして少しずつ内容物が胃から逆流するようにもなり、不顕性に誤嚥が続くこともある。治療としての臥床や絶食は廃用を助長もする。

誤嚥性肺炎の診療には深い理解が必要らしい。そしてアウトカムを定めることが重要になる。そうでないと、とりあえず入院、絶食して、ユナシン®、内服薬あったらそれだけゼリーで、というふうに場当たりになりがち。

  • ユナシン®(ファイザー):一般名スルタミシリントシル酸塩水和物。ペニシリン系抗菌薬スルタミシリンとβ-ラクタマーゼ阻害剤スルバクタムの水和した分子で、体内でそれぞれに遊離する。

本書のいいところは、アウトカムが患者主体で定められていて診療のアドバイスがブレないこと、ガイドラインやエビデンスにリスペクトがあること。

外来で患者を診て、入院で方針を定め、退院に向けて支援し、それでも治療の限界になれば緩和まで、というように、診療のいろいろな場面をQ&Aのかたちで小さなテーマごとにまとめてある。

目次から:

  • 第1章 誤嚥性肺炎かなと思ったら(外来編)
    • Q1 そもそも誤嚥性肺炎って?
    • Q2 誤嚥性肺炎と誤嚥性肺臓炎の区別は?
    • Q3 胸部CTは必要?
  • 第2章 入院で受け持つことになったら(病棟編)
    • Q11 病歴聴取や身体診察で、気を付けることは?
    • Q12 誤嚥の原因の調べ方は?
    • Q13 原因疾患に応じた対応は?
  • 第3章 退院に向けて(退院支援・地域連携編)
    • Q37 退院か、転院か?
    • Q38 転院が不安といわれたら?
    • Q39 診療情報提供書の書き方は?
  • 第4章 どうしてもよくならないとき(緩和ケア編)
    • Q45 嚥下機能がよくなるかどうかの見極めは?
    • Q46 ご家族に納得してもらうには?
    • Q47 「死んでもいいから食べたい」といわれたら?

それぞれのテーマは数ページで、出会いがちな疑問が最初に提示され、それに対するアドバイス、そのまとめが続く。

いくつか、著者の経験したエピソードが「ひとやすみ」というコラムで紹介される。「ひとやすみ」と親しみやすそうな振りをしているが、実は誤嚥性肺炎に限らず診療の本質を例示している。

 

疑問と解説

 

解説のまとめ

 

ひとやすみ