解剖実習室へようこそ
本書は新刊ではない。群馬大医学図書館の蔵書はこちら。
著者は現在、放射線科医。東大医学部の6年生のクリニカルクラークシップのときに解剖実習を選択し、臨床医学を学んだ経験から、医学生のための解剖実習の「見どころ」をまとめた副読本を制作した。それが認められて東京大学総長賞を授与された。
2005年刊なので、16年前だ。著者が1年生のときなら20年くらい前になる。
当時の東大医学部の実習書は『解剖実習の手びき 第11版』(2004年)だったはず。大学によっては、『人体解剖実習』『実習人体解剖図譜』というような今から60年くらい前のを使っていたかも知れない。
眼に鮮やかなイラストで驚かされた『グレイ解剖学』はまだない(初版が2007年)。当時の医学生は、3分冊の『分担解剖学』(1959年)、『解剖学講義』(1983年)、『入門人体解剖学 第4版』(1999年)などで苦労して学び、『イラスト解剖学 第2版』(2000年)に救いを求めるも試験にでるわけではないと過去問に戻るなどしていた。
そういうわけで、臨床医学からみた何らかのガイドは必要だった。
『グレイ解剖学 原著第4版』も『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第3版』もあり、『グラント 解剖学実習 改訂版』をビデオ付きで学び、CTもあり、エコーもありの現在の学習環境からすれば、隔世の感がある。これらをきちんと学んでいたら、『解剖実習室へようこそ』は「付け足り」になりそうだ。
現在の臨床医学のパースペクティブからみれば、話題のターゲットをいろいろ外しているかもしれない。例えば、上肢帯の筋のまとめがくわしいが、回旋筋腱板とは表現されない。また、FASTでチェックする体腔の隅(ダグラス窩、モリソン窩など人名で呼ばれるくらいには有名)など、当時でも些細ではなかったとは思うが、本書にはみあたらない。人体解剖学のコアが十年一日としても、周りの医学との界面は十年一昔である。
とはいえ、臨床にも役立つように基礎医学、とりわけ解剖学を学ぼうという気持ちは、解剖学自体をより印象的に、楽しくするはずだ。その励ましが力強い。そして今もそれは続いていて、同著者の監訳『診断力が高まる解剖×画像所見×身体診察マスターブック』の帯になったのだろう。
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