ケント 脊椎動物の比較解剖学

ケント 脊椎動物の比較解剖学

ケント 脊椎動物の比較解剖学

George C. Kent, Robert K. Carr
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ヒトの解剖学を学ぶと、何でそうなっているのか(そんなことになってしまっているのか)不思議に思うことがおおい。

「サイエンス」では『○○のため』と目的論で考えてはいけないことになっていて、それならと「タマタマ○○に合致している」と「合目的論」に言い換えたりするが、政治家の釈明と同じで、結局どっちも等価だ。

現時点で得られるエビデンスに基づくなら、発生学を参照してみるのが良い。成体に至る過程を知ることによって、例えば反回神経が反回してしまうしくみを知れる。それでも、不要な大動脈弓ができたり、それをまた消すのに「合致する」目的はなさそう。神経を反回させるのは不都合にしか思われない。目的論で片付けようとするのは、「サイエンス」のしきたりどおり、マズいことのようだ。

そういうとき、比較解剖学を持ち出して俯瞰で見てみるのが良い。比較解剖学はいろいろな科学を横断する解剖学の分野だ:

  • 現世の動物の形態を比べて、それを理解しようとする
  • 分子生物学・生理学なども援用する
  • 古代の生物の化石やら地質やらも含めて比較の幅を広げ、進化も考えに含める

本書は、比較解剖学の代表的な教科書。比較的新しい知見も含まれる。これ以前か・以後かでいえば、鳥類の起源と分類だ。ただし、原著は既に絶版になっているようで、改訂が2000年以降途絶えている。訳者がコッソリ直していなければ、それ以降の情報はない(鳥類の分類は少し直したらしい)。

大動脈弓(鰓弓動脈)ならこんな感じだ。水棲の鰓呼吸の動物、例えば硬骨魚類なら、第3〜6鰓弓動脈に鰓ができる。鰓と肺をもつマッドパピーは、第6大動脈弓から肺動脈ができる。鳥類は大動脈弓が右にできる。哺乳類は概ねヒトと同じ。進化は一方向なので、大動脈弓は哺乳類なら3対あれば十分となっても、一旦は一揃いできてしまうのだ。

 

鰓弓動脈

 

消化管のループならこんな感じ。動物が複雑になるに従って、消化管が延長し吸収効率が高まる。ガーやサメでは、消化管内にらせん形のヒダができて、表面積を増やしている。その他の脊椎動物では、消化管がループをなして全長を増しながら体腔に収まるようになっている。

 

消化管の比較

 

訳文がかなり、いや、とても読みにくい。

本書以前に米国の大学で使われていた名著は、原著は途絶え、日本語版だけその後も入手できたがいまは絶版。内容に旧さはあるので(分子生物学がないとか、恐竜の後が鳥類ではないとか)、注意は必要。図をみるだけならだいたい大丈夫。

脊椎動物のからだ: その比較解剖学

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現在米国の大学で使われている脊椎動物の比較解剖学の教科書は、下の本。専門課程が決まる学年の一学期分の分量と内容。米国内版はとても高価だが、International Student Editionは安価。読みやすい日本語で日本語版がでたらいいのに。

ISE Vertebrates: Comparative Anatomy, Function, Evolution

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Kardong, Kenneth
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