日本人のからだ―解剖学的変異の考察
日本人の身体において、解剖学的多様性(変異)を集成したテキスト。『分担解剖学』などの古いテキストや肉眼解剖学関係の専門誌には変異に関する記事がみつかるけれども、日本人の全身に関して形態的変異をまとめた書籍は空前絶後だ。本書は1994〜1995年の科学研究費によるもので、国内11大学他が協力して集積された情報を編纂してできた。現在絶版になっているけれども、再販、電子化してほしいものだ。
『ブラック・ジャック』に、内臓逆位の話がある(「ピノコ・ラブストーリー」)。神経や血管を末端まで知り尽くしているブラック・ジャックも、内臓が左右逆転している患者では混乱して手術に困った、という話だ。
人体をすみずみまで暗記はしていなくても、解剖学実習をやったことがあれば、解剖体の形状が教科書と違っていて困った経験が少なからずある。臨床に進んでいろいろな臨床手技や画像診断をやっていれば、形態の多様なことを知らないと過誤につながることは自ずと心するに違いない。そのようなときに、このような成書が役に立つ。少し見てみよう。
全体が系統解剖学に沿って編集されている。各章の前半に解説文、後半に図版がまとめられている。言及されている構造は多岐にわたっている。知りたいテーマを探すのが大変なくらいだが、前半で言及されていることの大半は図になっているので、図からテーマをさがすとよい。文章だけの場合もあるので、図になかったら前半からさがしてみる。
解剖学的多様性は、しばしば系統発生学や個体発生学から理解される。一部はその分子機構にまで言及される。また、研究方法も解説されることがある。
腕神経叢など一部の構造については、とくに詳細に変異パターンがまとめられている。これは解剖学実習で課題として多年度にわたって取り組まれてきたことが元になっている。
解剖学的構造のそれぞれに、多数の変異のパターンが集積されている。
臨床に直結することがらも少なくない。肝区域のクイノー分類とその変異は、肝臓の外科で重要になる。気管支の分岐パターンの図には、内腔からのぞいた様子も描かれていて、気管支鏡を使うときに役立つはずだ。
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