人体解剖カラーアトラス 原書第8版
写真によるアトラスの改訂。電子版が付属するようになって利便性が上がった。
書名がほぼ同じで写真を使ったアトラスに、『解剖学カラーアトラス』がある。これと版の番号まで同じになって、いよいよ区別が難しくなった。購入時に取り違えないようにしよう。
原題は趣きが違えてあるので(*)、次の改訂の時には両者で調整してほしい。いまやほぼすべての解剖学アトラスが全ページカラー印刷で、タイトルに「カラー」と入れても差別化にはならないので、そこも再考してよいのではないか。
*『Abrahams’ and McMinn’s Clinical Atlas of Human Anatomy』『Photographic Atlas of Anatomy』
ここでは、「マクミン」と「ローエン・横地」で区別しておこう。本のボリュームでは、「マクミン」は「ローエン・横地」の65%になり、コンパクトだ。
1977年に初版が出版された「マクミン」の方が歴史は長い。以来、編者を交代して様々なコントリビューションがあったようだ。古い写真には、標本の状態、剖出技術、撮影技術とも、優れたものが多い。最近は医用画像や内視鏡画像など臨床関連の画像が増え、より生身に近い固定法が使われるなど、内容が臨床解剖学の方向にアップデートされてきている。ただし、最近の写真の品質には問題のあるのも見受けられるのは残念だ。
「マクミン」の写真には番号で部位の名称が入っている。これは、「ローエン・横地」と同様だ。「マクミン」ではさらに体表の写真や模式図と解剖体の写真とが対比されていることがおおく、解剖体の構造をみて判別しやすくなっている。
気管支樹や肝臓の血管などの鋳型標本など、ほかのアトラスにはあまりみられない標本も使われている。最近撮影された写真にはThiel法で固定された解剖体が使われ、生体に近い色調や質感がある。また、脈管や神経が画像上で色付けされている。
最後の章にはリンパ系がまとめられている。解剖実習ではリンパ系の観察は困難で省略されることがほとんどだが、感染症や悪性腫瘍の臨床ではとても重要なので実習と合わせて学びたい。
今日では開腹ではなく内視鏡や手術ロボットを使った外科手術が行われることが少なくない。そのようなときにみえる状況を模した写真や、実際の内視鏡手術中の写真も使われる。CT・MRIのような医用画像も解剖体と対比して示される。
第8版で加わった解剖写真では、撮影時に写真技師のアドバイスがあったらしく、一定の品質が保たれている。しかし、第7版で加わった写真には、剖出も撮影も商品とはおよそ考えにくいのも散見されていた。照明ムラや色かぶりがひどく、光がよく回っていないために白飛び・黒つぶれで画像処理では改善できない。被写界深度も浅くてボケが多い。撮影の向きもいいかげんで、オリエンテーションを読み取るのに苦労する。第8版でもそれらが一部残っているのは残念なところだ。
剖出の品質や撮影技術を高めるには、制作のリーダーがどれほどの品質を是とするか、その審美眼の高いことが求められる。次回の改定には美術監督や撮影監督の役割をするスーパバイザが介入したほうがよいのではないか。歴史のあるアトラスの劣化していくのは忍びない。
第8版での大きな改善は、電子版が付属していることだ。タブレットやパソコンを使って、エルゼビア社のeLibraryで紙面とままの全文を読める。iPadを防水バッグに入れて使えば、実習用に別にアトラスを用意しなくてもよくなる。あるいは逆に、冊子体を実習用に使い捨てにしてしまっても電子版が残るからよい、と考えることもできる。
また、紙面中の▶アイコンのあるところには、対応するムービーが用意されていて、Expert Consultでみることができる。これも日本語されている。その多くは、医用画像から構築した3D画像だ。なお、エルゼビアの専門書類(英語原著)で使われているExpert Consultとは別サービス・別サイトなので、注意されたい。
冊子の多くのページの隅に小さな写真がならんでいる。原著ではそれらに対応する臨床症例がStudent Consult上に豊富に用意されている(英語)。日本語版ではこれは付属していない。原著の書名が『Clinical Atlas of Human Anatomy』で、日本語版の書名に「臨床」と入っていないのはこういうことだろうか。英語であってもDeepLなどで簡単に日本語に翻訳して読めるので、日本語版にも付属していたらよかったのにとは思う。
凡そ解剖実習中に参照されるような本には、すべて電子版が付属していてほしいものだ。解剖実習では本が汚れやすく、高価な本も使い捨てになってしまうのだ。本書の他、『グレイ解剖学』、『グレイ解剖学アトラス』、『ネッター』(電子版付きのバージョン)など、エルゼビア社の教科書の日本版は、この点で優れている。「ローエン・横地」など、ほかにも優れた解剖学書は多いが、電子版が付属していないのは残念だ。
本学の学生のiPad所有率は年々上がっている。今年度の解剖学の履修生の3/4がiPadを使っていた。iPadはZoom講義や国試対策のビデオ講義でも利用されている。教科書もこれになじむものが多く使われていくのではないか。
DeepLで説明を機械翻訳してみる(原文まま):
眼窩蜂窩織炎とは、眼球を取り囲む眼窩組織の急性感染症です。眼窩自体に広がる危険性のある感染症で、失明の恐れがあるため、医療上の緊急事態となっています。通常、副鼻腔からの細菌感染(小児では通常インフルエンザ菌によるもの)、まぶたにできた裂け目、虫刺されや異物混入などの最近の外傷などが原因で起こります。
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