解剖学用語に特有の記法

解剖学用語には、普通の日本語や臨床医学で使われる用語とは異なる表記や読み方のがある。一般の国語辞典でも、医学関係内で通用する表記として認められているのもある。

以下、()内が一般的な表記や読み方。

略記されたもの

解剖学用語が制定されたときに、画数の多い漢字のいくつかが、画数が少ない漢字に置き換えられた。手書きが億劫との理由だったようだが(当時の解剖学用語の委員が講義でそう言っていた)、現代では手書きの機会は少なくなった。

  • 線維(繊維):線と繊は読みが同じで、いずれも細いものとの意味がある
  • 殿部(臀部):殿と臀は読みが同じ。殿にしんがりの意味はあるが(反対語は最)、尻の意味は無い
  • 果粒(顆粒):果と顆は読みが同じ。果はくだもの、顆はつぶ状のもの
  • 外果(外踝)・内果(内踝):果と踝は読みが同じ。果はくだもの、踝はくるぶし

注意! 外側上顆・内側上顆(上腕骨や大腿骨の下端にある)や、外側顆・内側顆(脛骨の上端にある)の顆は、果とは表記しない。却って面倒だから、顆も踝も正規の表記で覚えたらよい。

区別のために冗長にしたもの

  • 冠状動脈(冠動脈):肝動脈と読みが同じなので区別のために状をいれた。臨床医学では冠動脈が多い

誤読を推奨しているもの

  • 口腔(こうくう)口腔(こうこう))・胸腔(きょうくう)胸腔(きょうこう))・腹腔(ふくくう)腹腔(ふっこう):漢和辞典では「腔」には「こう」という読みしかない。「くう」は誤読であるが、解剖学ではあえてこれが推奨されている。解剖学用語に口や孔のついたのがあるので、区別のために敢えて「くう」と読むことにしたといわれる。理科の教科書は「こう」。国語辞典では「医学会ではこうとよむ」との注記をみることもある。
  • (とう):橈の本来の読みは「どう」だが、誤読が推奨されている。国語辞典でも「とう」になっている。
  • ()状乳頭:茸の読みは「じょう」だが、誤読が推奨されている。一般にも受け入れられている。また茸をキノコの意味で使うのは日本語固有で、本来は草が茂るさまをいう。

読み方と意味が異なるもの

  • 外側(がいそく)内側(ないそく):方向を示す用語で、体の中心の軸(正中面)から側方への遠近を示すのに使われる。英語では、lateralとmedial。一般にいう外側(そとがわ)内側(うちがわ)は、解剖学用語では(がい)(ない)で、英語はexternalとinternal

生物学用語と異なるもの

  • 尿細管(腎細管):英語はrenal tubuleだから、腎細管が合っている

なぜか変えられたもの

  • 腹膜後臓器(後腹膜臓器):もとは解剖学用語も後腹膜だった。臨床医学には浸透していない
  • 腎盤(腎盂):臨床医学ではいまも腎盂

生真面目なもの

  • 肋間隙(肋間):臨床医学では肋間。英語はinter○○ spaceだから、間隙には違いない

人名を廃したもの

  • 踵骨腱(アキレス腱)・子宮直腸窩(ダグラス窩):ほかにも多数あるが、普及していないのも少なくない

解剖学用語では正字を用いる

解剖学用語に使われる漢字に俗字や書写体がある場合、それらも許容する。しかし、文字コードに入ってない漢字は印刷物では使われにくい。

  • 頸(頚のほうが一般的)
  • 脛(よりも脛のほうが一般的)
  • 腿(書写ではしんにょうの点が1つでもよい;文字コードには含まれない)
  • 嗅(書写では犬は大でもよい;文字コードには含まれない)

試験での評価について

医学関係で用例があれば(誤用を除く)、解剖学用語の表記でなくても可とする。

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