医療の業界では、ハサミを「剪刀(せんとう)」という。実際の外科手術では、剪刀は切断のためより、組織の剥離(鈍的剥離)の目的に使うことが多い。閉じたハサミを組織に差し込み、そのままハサミを開いて剥離する。刃が組織に当たらないので、大切な血管や神経を切らずに済む。
解剖でも、剖出は鈍的剥離の繰り返しだ。剪刀を使うと、結合組織の剥離と切除をひとつの器具で連続してできるので、効率的に作業が進む。
早いうちにハサミを使った剥離が上手になると、剖出が上手に早くできる。より多くのものを見て学べるはずだ。ここで剪刀の使い方に慣れておけば、将来も役立つだろう。
そういうわけで、皮切が済んだらまずメスをしまって、剪刀に持ち替えること。意地でもメスに触れないこと。
剥離用に考案された剪刀の代表的なのが、メーヨー剪刀とメッツェンバウム剪刀。
メッツェンバウムは細かな剥離に向いていて、刃先が細い。解剖では細かな剖出がおおいから、メッツェンバウム剪刀が使いやすい。長めの反りのタイプはプローブの代わりにもなる。
メーヨーはよりおおざっぱな剥離に向いていて、刃先が厚くできている。メーヨー剪刀は固い組織の剥離によい。
特に細かな剥離には眼科剪刀が役立つ。
いずれも、長さ、先端がまっすぐか反っているか、刃先がステンレスか超硬刃かなどのちがいによっていろいろある。全長の長いのは奥まった場所で使いやすいし、力も入りやすい。刃先が反っているのは手元が視界を遮らないのに役立つ。
「外科剪刀」(クーパー剪刀)でもよい。両尖のタイプは先端がメッツェンバウムやメーヨーより鋭いので、深筋膜など硬い結合組織に使いやすい。Grant’s Dissection Videosで使われているのがこのタイプだ。メッツェンバウムやメーヨーよりも安価だ。
手術器具の剪刀の持ち方は文具のハサミの持ち方と違う。人差し指で刃先を安定させ、母指と薬指をループに通す。
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