発生学の教科書は何がよいか

発生学の教科書の選択はむずかしい。

現カリキュラムでは発生学の授業は駆け足で進む。一方で、CBTでは発生学からも少なからず出題されている。

発生学には3つの視点がある:

  • 記載発生学(発生の形態変化を丁寧に観察し記述)
  • 発生生物学(発生の因果を細胞や分子のレベルで説明)
  • 臨床との関連(先天異常の仕組みを発生学や発生生物学から裏付け)

現代では生命倫理の点からヒト胚を実験対象にすることは困難だから、ヒトの記載発生学の新たな進展は少ないだろう。一方で発生生物学は実験科学として発展を続けている。これが臨床上の積年の問題を解明することもある。教科書としてこれらの折り合いがどうつけられているか、新しい知見がどこまでフォローされているか、授業期間内にこなせる分量かが、教科書選択のポイントだ。

コンパクトな教科書。多くの履修生がこなせるだろう。発生のストーリーを見開きで区切ってあって学びやすい。優しいタッチのイラストがたくさんある。発生生物学は切り捨てられている。四肢発生が殆ど含まれない。2017年度推奨。

京都大学医学部での発生学の授業をもとにしている。限られた期間に学ぶのに多すぎない分量。ヒト胚標本の世界的なコレクションである「京都コレクション」からの画像がふんだんに使われており、他と一線を画す。

本書の特徴は、記載生物学に囲み記事として付け加わった発生生物学だ。原著の出版は2008年だが、それまでの知見はおよそフォローされている。ただし、細かな情報が多く詰め込まれ読みにくい。

発生学と発生生物学とがうまくまとまっている。多すぎず少なすぎず読みやすい。邦訳に『カールソン人体発生学―分子から個体へ』があるが、旧い版なので避けよう。邦訳も改定されればこれを推すところだが、その予定はないらしい。

記載発生学の教科書として、『ラングマン』とともに従来から使われてきた。分かりやすい図版と臨床関連の記事が特徴。発生生物学の話題は含まれない。日本語版の改訂が原著より遅れている。

発生生物学の代表的な教科書。授業で発生生物学の内容が多かったらこれを。

密度の高い文章。内容に不足はないが、学習者がのみ込のは大変そう。図が不足気味。この版では元の点描画がCGでトレースされたが、前の方が形を捉えやすかったし、形の間違いも生じた。日本語版の版の番号が原著とずれていてややこしいが、日本語版第11版に対応するのは現行の原著第13版。

アイキャッチ画像:ハンス・シュペーマン(1869-1941)ドイツの発生学者、胚誘導とオーガナイザーを発見。1935年ノーベル生理学・医学賞