解剖学的嗅ぎタバコ入れ

母指を外転させたときに手背の橈側にできる三角形のくぼみ。タバチエール(仏語tabatière anatomiqueから)。

尺側縁を長母指伸筋腱がつくる。橈側縁を成すのは、短母指伸筋腱と長母指外転筋腱。近位側の縁は橈骨の茎状突起。

解剖学的嗅ぎタバコ入れで舟状骨を触れることができる。その遠位に大菱形骨を触れる。また、橈骨動脈の拍動を触れられる。

Henry Gray (1825–1861). Anatomy of the Human Body. 1918.より
Henry Gray (1825–1861). Anatomy of the Human Body. 1918. より

手根骨のうち舟状骨がもっとも骨折しやすい。舟状骨への動脈は遠位側から入るので、骨折のとき適切な処置をしないと近位側が壊死することがある。レントゲン写真で小さな骨折線を確認するのは必ずしも容易ではないので、解剖学的嗅ぎタバコ入れでの舟状骨の触診による診断が重要である。

なお、レントゲンで写りにくい骨折は、MRIで可視化できる。下図はOsiriXのサンプルデータからOsiriXを使って作成。

T1 TSE COR RT..0006
舟状骨骨折:T1/STIRフュージョン。図の右側が橈側。T1(グレースケール)で描出された舟状骨の遠位部にSTIRのシグナル(炎色)が載っている。

また、透析用の動静脈シャントをこの部の橈骨動脈で作成することがあり、タバチエールシャントという。

教科書には少なからず一様に「昔ムカシ、欧羅巴で嗅ぎタバコを吸入するときにここを使っていた」というような解説がある。どの著者も、検証を加えて記述した風ではない。

いまでも、嗅ぎタバコを吸う人はいる。吸入用の容器もあるし、解剖学的嗅ぎタバコ入れを使うこともある。煙を吸うことはないが、少なからず健康を害する(1, 2, 3

「嗅ぎタバコ」は英語でSnuffという。スラングではそれとは異なる意味にもなるので、代わりにsmokeless tobaccoといわれることもある。

アイキャッチ画像:Wikimedia