小説みたいに楽しく読める免疫学講義

羊土社「小説みたいに楽しく読める」シリーズの続刊は、免疫学。現代の免疫学にいたる研究者たちの工夫や発見を交えて、免疫のしくみを大きく、しかし精確に、とらえる。

新型コロナウイルスのせいで、あるいはおかげで、ふつうのひとにも免疫学のいろいろなワードが浸透した。クラススイッチやワクチンや免疫回避など、ワイドショーにもでてくる。

前著『免疫学はおもしろい』『免疫学はやっぱりおもしろい』の改訂兼、リブランディングとして、本書は企画された。「新型コロナウイルス感染症のパンデミックを前に、感染症と戦う免疫のことをもっと皆さんに知っていただかなくてはいけないという思いが募り、今一度筆を執ることにし」たという。

コロナをきっかけに逆張りの解説本は多く出たけれども、このような本のあることが心強い。

もくじをみると、免疫学全体がカバーされていることがわかる。

もくじ(クリックで表示)
  • はじめに
  • 序章 新型コロナウイルスと戦う免疫を知ろう
  • 第1章 それは伝染病からはじまった
    1. 伝染病と二度なし―獲得免疫
    2. 生まれつきもっている武器―自然免疫
    3. 免疫はよいことばかりじゃない―アレルギー
    4. 小児科医の大きな貢献
  • 第2章 免疫の謎に挑んだ偉大な先人たち
    1. 二度なしのしくみの考察
    2. 一卵性双生児でも免疫は同じではない―柔軟なシステム
    3. パズルへの挑戦―謎解きのはじまり
  • 第3章 解き明かされた数々の謎
    1. 数多くのウイルスや細菌と戦える理由―特異性と多様性のしくみ
    2. 自分を自分とわかるのはなぜだろう―拒絶反応のからくり
  • 第4章 免疫はものを見分ける
    1. 目立つ異物を見つけ出す方法
    2. 目立たない異物まで見つけ出す方法―遺伝子を組換えてできるリンパ球の目
  • 第5章 自分が自分とわかる仕掛け
    1. 入学は楽だけど卒業が難しい胸腺大学―自己寛容の秘密
    2. 自分を攻撃しないための第二・第三の策略
  • 第6章 免疫の登場人物とその履歴
    1. 外敵と戦う戦士たち―多彩な顔つきの白血球と自然免疫
    2. 免疫の隠れた司令塔―樹状細胞とリンパ組織
    3. 分子ミサイル「抗体」の誕生―液性免疫
    4. ツベルクリン検査が教えるもう一つの戦い方―細胞性免疫
    5. リンパ球の役割分担―二一世紀になって見つかった(!)自然リンパ球
  • 7章 病気と免疫
    1. 感染症を予防するワクチン
    2. 免疫は両刃の剣―アレルギーと自己免疫疾患
    3. ゲノムが教える病気との関係
    4. 臓器移植と再生医療
    5. がんは免疫で治る時代が来た
    6. 微生物の逆襲―エイズウイルスの驚きの戦略
  • 終章 残された疑問:まだまだわからないこと

 

免疫のことを考えると、不思議なことがたくさんある。自己と非自己をどうみわけるのか、とか、星の数ほどの病原体にどうして対応できるのか、とか。最近のでいうと、癌免疫療法ってうまくいくのかとか。

そういう素朴な疑問、研究者にとっては「リサーチクエスチョン」が、本書ではまず提示される。そしてそれがどのように解明されてきたのか、実験のあらましを使って解きほぐされる。

 

現象への「問」から話しが始まる

 

問いの解明のキーになった実験を解説:胸腺でのT細胞の成熟

 

実のところ、実験の解説は、登場する物質名を憶え、理屈を理解しながら、慎重に読まないと難しい。初見ではさっとは読めない。

しかし、よきところで、まとめがある。ゲームでいうと「セーブポイント」のようなものだ。そこを辿って読み進んだり、前の方に進んでから確認したりできる。

筆者は小中学校で講演をすることもあったという。小学生も本書のオーディエンスになるだろうか? CD○○を全部いえるとか、免疫学の「博士ちゃん」になりそうな生徒はいるかもしれない。免疫学の研究をしようとする学部生・院生なら、過去の重要な実験のアウトラインをつかむのによさそうだ。

免疫学の進歩は早い。本書は、新型コロナウイルスを動機に新しく書かれたので、新しい話題がカバーされている。

ひとつは、2018年ノーベル生理学・医学賞になった、チェックポイント。

ある種の癌細胞はチェックポイントを使ってT細胞からの攻撃を抑えている。その仕組みをつかって、癌の分子標的薬が実用化され、ガイドライン(日本臨床腫瘍学会)も制定されている。

 

そして、mRNAワクチン。しくみや、RNAに対して生じる激しい炎症をどういう工夫で抑えたのか、など。逆張り本が多数でているので、リテラシーを確保しておきたいポイントだ。

 

mRNAワクチンの工夫

 

本書の姉妹巻の「生命科学」のほうは、文系の大学生向けの講義がもとになっている。ノリが軽く、雑談もたのしめる。日本史の部分は評者は苦手なので、飛ばし読みしたけれども。

 

免疫学は難しい・わかりにくいとされる学問のひとつだ(他には解剖学、神経科学、統計学、心電図…動悸がしてくる)。

免疫学自体をわかりやすい本で学ぶなら、以下もある。「マンガでわかる」は2014年で、チェックポイントという用語はでてこないが、概観には十分。免疫系に登場する細胞たちを先に知るには、「はたらく細胞」。血小板ちゃんは第1巻。胸腺の話しは第3巻。コロナは第6巻。

科学雑誌にも免疫関連の特集がある。たとえば実験医学をチェックしてみよう。