エキスパートナース 2021年12月号

ナースステーションから夜空がみえるのだろうか

エキナス12月号の特集は「ハイフローセラピー」。COVID-19で知られるようになった。

ECMO(体外式膜型人工肺)人工呼吸は重症例に使われる。中等症には酸素療法が行われる。

酸素療法は、大気よりも濃い酸素を気道に供給する治療で、呼吸自体は自発呼吸になる。成人の1回換気量は約500mLで、これを1秒間で吸うとすると流速にして30L/分。普通の酸素療法では、これほどの流量は使われず、5L/分までなら加湿も省く。

30L/分を超える流量を使うのが高流量システムで、60L/分までの流量を鼻カニューレを使って鼻腔に供給するのが、ハイフローセラピー、別名ネーザルハイフロー。エビデンスはまだ蓄積中だが、システミック・レビューでCOVID-19の治療で、挿管を減らす効果があるかも、といわれたらしい(*注)。効能は4つ:

  1. 吸いたいときにいつも酸素を安定供給できる
  2. 鼻腔の残気を吹き飛ばせるので、解剖学的死腔のうち鼻腔の分をキャンセルできる
  3. 呼気の最後のほうでも(少しだけだけど)陽圧が掛かる(PEEP効果)ので、(多少は)肺胞虚脱しにくい
  4. 加温加湿するので気道に優しく、痰が出やすい

 

ハイフローセラピーの効能

 

やっと解剖学が出てきた。解剖学的死腔。呼吸器系の全容積のうち肺胞と呼吸細気管支以外の部分、つまり鼻腔から終末細気管支までを指す。

ここはガス交換に使われない。成人で約150mLとされる。この部分の空気は呼気を最大限にしてもはき出されないので、吸気でまた吸い込むことになる。

つまり、肺胞が新鮮な大気に出会うのは、生まれて最初に吸う空気だけで、あとは継ぎ足し継ぎ足しになる。実際、下気道で酸素と二酸化炭素が入れ替わるのは、対流よりも分子の拡散が優勢になる。胎児の呼吸促迫症候群に使われるHFOV(高頻度振動換気法)は、この拡散を促すものだ。

HFOVのガス交換の機序(看護roo!より)

 

解剖学的死腔がどれだけ不都合か、ためしにそれを延長してみたら分かる。5メートルくらいの撒水ホースを口にくわえて呼吸したらホース内の死腔が1回換気量と同じになる。CO2ナルコーシスになるほどやると失神するカモなので、やるなら安全のため、他の人に見ていてもらおう。

逆に、解剖学的死腔を減らしてみよう。長距離走で指導される呼吸法で、おおきく呼吸する、というのは、死腔の影響を減らすため。鼻から吸って口からはくというのは、鼻腔の気流を一方通行にして死腔をなくすため。

キリンは頸が長いために死腔も大きい。それでも気管を細くして死腔の増大を抑えているようだ。

それもこれも、哺乳類の呼吸器系が盲端の袋でできているせいだ。哺乳類は横隔膜を「発明」して換気量を増やして有利に生き延びられたが、そのころは大気の酸素がいまより濃かったのである。

いまより酸素がずっと薄かったころの恐竜と、いまのアリゲーターと、恐竜を祖先とするいまの鳥類、これら共通の祖先は、「気嚢」を発明して使ってきた。肺はあるが肺胞はなく、呼気のときも吸気のときも、新鮮な空気が肺を一方通行で流れるようになっている(下のツイート)。死腔がない。渡り鳥がエベレストも越えられるのは、そのおかげだ。

 

 

第3〜6鰓弓からできる魚類の鰓は、まわりを水が流れるようになっていて、これも死腔がない。肺魚のまえあたりで、肺を発明して第6鰓弓動脈をそっちに使うようになるわけだけど、これは水中に酸素が薄くなったところにいたからで、そのときは好都合だった。肺のおかげで動物が陸上に上がってきたが、死腔も宿命として受け継いでいる。

さて、呼吸管理関係は、DAI語のようなことばがたくさんでてきた。まとめておこう。

  • P-SILI:自発呼吸関連肺障害
  • NHF:ネーザルハイフロー
  • HFNC:高流量カニュラ酸素療法
  • PEEP:呼気終末陽圧
  • PaO2:動脈血酸素分圧
  • PaCO2:動脈血二酸化炭素分圧
  • FiO2:吸気酸素濃度
  • NPPV:非侵襲的陽圧換気療法
  • MDRPU:医療関連機器圧迫創傷
  • IPPV:間欠的陽圧換気療法
  • ROX index:SpO2 / ( FiO2 ・ 呼吸数 )

* ハイフローによって生じたエアロゾルがCOVID-19の院内感染の元になったと疑われた事例がある