Gray’s Atlas of Anatomy, 3E

『Gray’s Atlas of Anatomy』は『グレイ解剖学』の原著に対応したアトラス。日本語版はまだ改訂されていない。『グレイ解剖学』と同じイラストレーターたちによる明解な図が多く使われ、医用画像や体表解剖と統合されていることが特徴。

『グレイ解剖学』自体、多くの図が使われているので、それに加えてこのアトラスを使う意義はどのくらいあるだろうか。また、同じくCGを使ったイラストのアトラス『プロメテウス解剖学 コア アトラス』と比較してどうだろうか。

『Gray’s Atlas of Anatomy』の特徴は次の4つだ。

  • 『グレイ解剖学』と章立てや用語(英語と日本語の違いはあるが)が揃っている
  • 『グレイ解剖学』よりも詳しい図が多数ある
  • 医療画像が多く取り入れられている
  • 電子書籍がついている(『プロメテウス解剖学 コア アトラス』にはない)

『プロメテウス解剖学 コア アトラス』を『グレイ解剖学』と使うと、用語の差違に戸惑うことがある。短期間に多くを学ぶので、こうしたことも煩わしい。一方、『グレイ解剖学』と『Gray’s Atlas of Anatomy』とは原著者、出版社が同じなので、章立てが揃っている。微妙な違いによる煩わしさがない。『Gray’s Atlas of Anatomy』の日本語版が改訂されれば、用語も揃うことになる。

『Gray’s Atlas of Anatomy』の図は、『グレイ解剖学』と同じイラストレーターたちが描いたものだ。重複するモチーフは多いが、より詳しく描かれ、タッチにもリアリティーがある。レイアウトには見開きが多用され、迫力がある。

比較のため、『Gray’s Atlas of Anatomy』から図をいくつか選び、それに似た図を『グレイ解剖学』原著第4版から探してみた。文字が日本語のが『グレイ解剖学』、英語のが『Gray’s Atlas of Anatomy』だ。

胸部から、縦隔右側面の図。『Gray’s Atlas of Anatomy』ではより多くの構造が描き込まれ、向かいのページの3D CT像と対比できるようになっている:

 

 

縦隔横断面のCTと解剖との対比。『Gray’s Atlas of Anatomy』ではより多くのスライスが使われている:

 

 

このように、『Gray’s Atlas of Anatomy』には解剖と医療画像とを対比できる図が多い。解剖実習でCT像を参照するだけなら、CTの教科書はなくても済むかもしれない。『プロメテウス解剖学 コア アトラス』に医療画像がほとんどないのと対照的だ。

鼠径管の図は見開きになっていて、ほぼ原寸大だ。男女とも詳しく描かれている。女性の鼠径管が詳しい教科書やアトラスは少なく、女性の解剖体を担当する学生が困ることが多い。この図が助けになるだろう:

 

 

腹部の内臓の痛覚と放散痛のまとめ。『グレイ解剖学』では表になっているが、『Gray’s Atlas of Anatomy』ではグラフィックで分かりやすい:

 

筋のまとめの表。『Gray’s Atlas of Anatomy』では、色分けで見やすくなっている。見開きで模式図もある:

 

 

残念ながら、以前指摘した脳神経ⅣとⅥの走行の間違いはまだ修正されていない。硬膜のある図ではⅥが斜台に、Ⅳがその外側のⅤの近くにあって適切に描かれている。硬膜の取り除かれた図では、ⅣとⅤの位置関係が逆になっているし、Ⅳが片方しかない(上斜筋と一緒に取り除かれたか?)。神経が遊離されて自由に動かせる状態を描いているので、神経の並べ方によっては実物がこうなることもあるけれども、あえてアトラスの図に描かなくてもいいはず。