医療事故は増えているか?

米国では近年、医療事故死が増加しているらしい(3)。年間の医療事故による死者の数が、1999年に44,000–98,000、2004年には195,000、2013年に210,000–400,000、2016年に251,000だった(いずれも推計)。2016年に関しては、死亡原因の第3位が医療事故だったという。

米国ではここ30年にわたり医学教育カリキュラムの改訂が進められてきた。にもかかわらず医療事故が増加していることから、恐ろしい仮説がうまれる。すなわち:

医学カリキュラムの改訂が医療事故死増加の原因かもしれない(3)

これを裏付けるエビデンスは、まだないようだ。

日本の医療事故の推移はどうだろうか? 現在日本では医療機関は、医療事故を医療事故調査・支援センターに報告する義務がある。これは医療法で定められていて、2010年から制度が実施されている。

医療事故調査・支援センターの年報から、医療事故の推移がわかる(4)。年報をさらに集計したデータによれば、医療事故の報告数は増加していて、2018年は過去最高だった(5)。このデータをもとに、医療事故の推移をグラフにした。

このグラフでは医療機関あたりの医療事故報告件数を折れ線グラフにしてある。発生頻度を比較したいので分母を延べ患者数にできたらよいが、近似と考えることにする(年報では病床あたりの集計があるが、外来患者数が反映されない)。棒グラフは報告のあった医療機関の数で、ここでは制度への認知の広がりの目安と考える。

医療事故調査・支援センターでは、近年の医療事故数の増加を「医療事故を報告することが定着してきているものと考えられる」と分析している。そうかもしれないし、実際に増えているのかもしれない。

研究によると、医療事故は少なからず「ノンテクニカルスキル」の不足が原因という(2,6)。ノンテクニカルスキルというのは、専門にかかわらず必要とされる技量のことで、ヒューマンファクターなどと表現されることもある。ノンテクニカルスキルは、おおきく2つに分類できる(1):

  • 認知や心理に関するスキル:判断力、計画性、状況把握力など
  • 社会性や対人性に関するスキル:チームワーク、コミュニケーション、リーダーシップなど

米国ではもとより、これらを重視して医学教育カリキュラムが改変されてきた。TBL、PBL、ケーススタディ、アクティブラーニングなどがそれだ。加えて、医療事故の低減を目標に医学教育のさらなる改訂が試みられている。解剖学では、解剖学者が臨床家とチームを組み臨床現場(point-of-care)に関わる例がある(3)。

本学を含め、現在日本でも米国など諸外国の状況を睨んで医学カリキュラムの改訂が進められている。そもそも、30年前に比べて大学入試の難易度は上がり(7)、医師の資格試験もCBTやOSCEが必修になり(8)、国試対策でビデオ講座が一般的になるなどしている。どうなることやら、特に、エビデンスが蓄積されるか、注目していよう。

  1. Fletcher, G. C. L., McGeorge, P., Flin, R. H., Glavin, R. J., & Maran, N. J. (2002). The role of non-technical skills in anaesthesia: a review of current literature. British Journal of Anaesthesia, 88(3), 418–429. http://doi.org/10.1093/bja/88.3.418
  2. Uramatsu, M., Fujisawa, Y., Mizuno, S., Souma, T., Komatsubara, A., & Miki, T. (2017). Do failures in non-technical skills contribute to fatal medical accidents in Japan? A review of the 2010-2013 national accident reports. BMJ Open, 7(2), e013678. http://doi.org/10.1136/bmjopen-2016-013678
  3. Pawlina, W., & Drake, R. L. (2017). Bridges are waiting to be built: Delivering point-of-care anatomy for everyday practice. Anatomical Sciences Education, 10(4), 305–306. http://doi.org/10.1002/ase.1714
  4. 医療事故調査・支援センター 2018年 年報
  5. 2018年の医療事故報告4565件と過去最高~日本医療機能評価機構調べ(ワタキューメディカルニュース)
  6. 大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部「チームパフォーマンス(ノンテクニカルとテクニカルスキル)
  7. 「共通一次より現在のセンター試験の方が遥かに難しい」という意外な事実(アゴラ)
  8. 医師国家試験の変遷と今後の方向