Ross組織学 原著第7版

Ross組織学(原書第7版)

Ross組織学(原書第7版)

Wojciech Pawlina
10,120円(04/19 14:54時点)
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ポイント:

  • 普通の組織学の授業に本書が不足することはない
  • 全部読まなくてもよい:そのための「まとめ」がある
  • 電子版がない

組織学の授業の目標は、光学顕微鏡写真を自分で読めるようになることだ。病理診断の基礎になるし、顕微鏡写真がCBTや国試に出題されるから。

組織学の教科書は、それをサポートするものでありたい。下のような教科書が目安だ:

  • 高品位な光学顕微鏡写真が多数あること
  • 文章や写真だけではわかりにくい局面で適宜模式図があること
  • 形態を意義付ける機能面、分子面の記述がしっかりしていること
  • 新しい知見がフォローされていること

『Ross組織学』はこれをカバーする教科書のひとつで、そのなかでもボリュームが大きい。

 

 

本書の特徴は、読んで学ぶための教科書と、顕微鏡写真を見て学ぶためのアトラスとが統合されていること。座学で学ぶときも、組織学実習で参照するにも使える。

もうひとつは、記載されている内容のスペクトルが広いこと。形態学だけではなく、細胞生物学、分子生物学、病態生理学まで含む。組織学の授業を乗り切ったり、CBTや国試に対応するには、多すぎるくらいだ。一方で、卒後に自分の専門が先鋭化したときにも役立つだろう。

本のボリュームは、類書のなかでは最大だ。『グレイ解剖学』よりは小さいが、文字や図の密度が高いので情報量はそれに勝る。

 

編者のポウリナ博士

 

原著第7版では、まとめのページが追加され、図の多くが更新された。

 

はじめに

 

本書の特徴は、小口を見てもわかる。淡色のページが各章のテキストの部分、濃紺のページがアトラスの部分だ。

用紙は光沢のあるコート紙で、顕微鏡写真の発色がいい。

 

テキストとアトラスが合わさっている

 

第1章は、組織学の方法論から始まる。HE染色から、いろいろな顕微鏡法まで。組織学実習で顕微鏡を扱う参考にもなる。

 

HE染色

 

光学顕微鏡の基本

 

リンパ系と外皮系を見てみよう。最初は、目次と概要から。

 

リンパ系の概要

 

テキストの部分には、細胞生物学や分子生物学の範疇の記載が多い。説明は詳しいが明解だ。光学顕微鏡写真だけでなく、電子顕微鏡写真、模式図、表も多く援用される。

分量が多いので、普通の組織学の授業には余るだろう。適宜ひろい読むとか、図だけまず追うとかして、活用しよう。

 

光学顕微鏡、電子顕微鏡、模式図

 

抗原提示の模式図

 

胸腺の模式図

 

各章のアトラス部分は、「プレート」と呼ばれている。一枚のプレパラートを弱拡大から強拡大まで撮影してある。組織学実習で役立つ。

 

プレート

 

小規模の組織学の教科書では省かれることの多い項目も載っている。

 

毛包の層構造:小さな組織学の教科書にはあまりみない

 

上に対応する顕微鏡写真

 

臨床関連事項も随所にある。

 

臨床関連事項:腫瘍から色素が「染みだし」ている様子が典型的なメラノーマ

 

章末には「HISTOLOTY 101」というまとめがある。試験前の復習に使える。「101」というのは、米国の大学でしばしば入門的な授業にわりあてられる授業番号のこと。

 

章末のまとめ

 

本書には参考文献が載っていない。これは教科書編集のポリシーではあるだろう。本文中に論文に言及すると話が煩雑になる。広く認められた事実なら、まとまったストーリーにしたほうがわかりやすい。

一方で、議論の余地のある事柄には、参考文献を検証したい場合は少なくない。リンパ系で言えば、ハッサル小体の機能。いくつか最近の報告はあるけれども、まだ教科書的な事実とまではいかない。本書ではその部分に訳者の注がはいっているけれども、ちょっと外しぎみだ。原著に参考文献があったら注の内容も違ったかもしれない。

  • Laan, Martti, Ahto Salumets, Annabel Klein, Kerli Reintamm, Rudolf Bichele, Hedi Peterson, and Pärt Peterson. 2021. “Post-Aire Medullary Thymic Epithelial Cells and Hassall’s Corpuscles as Inducers of Tonic Pro-Inflammatory Microenvironment.” Frontiers in Immunology 12: 635569. https://doi.org/10.3389/fimmu.2021.635569
  • Watanabe, Norihiko, Yi-Hong Wang, Heung Kyu Lee, Tomoki Ito, Yui-Hsi Wang, Wei Cao, and Yong-Jun Liu. 2005. “Hassall’s Corpuscles Instruct Dendritic Cells to Induce CD4+CD25+ Regulatory T Cells in Human Thymus.” Nature436 (7054): 1181–85. https://doi.org/10.1038/nature03886

日本語版は2019年刊だが、原著に相当する『Histology: A Text and Atlas: With Correlated Cell and Molecular Biology』第7版は2015年1月刊で、すでに8年が経過している。原著第8版は2018年12月刊、第9版は2023年9月予定だ。日本語版の改訂が待たれる。

また、原著にはKindle版など電子版もある。本のボリュームが大きいので、日本語版も電子版があるといい。

 

Histology: A Text and Atlas: With Correlated Cell and Molecular Biology

Histology: A Text and Atlas: With Correlated Cell and Molecular Biology

Pawlina MD FAAA, Dr. Wojciech
15,994円(04/19 14:54時点)
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