Essential解剖学―テキスト&アトラス

解剖学など基礎医学の授業時間が減っているのは米国も日本も同様らしい。医学生は、純粋な基礎医学だけでなく、臨床との関連にまでスコープを広げ、USMLE(米国)やCBT(日本)のために練習問題もこなさなければいけない。分厚い教科書をじっくり時間をかけて学ぶことができたのは、何十年も以前のことだ(*)。

(*) 教員にそんな原体験があるから、ハードコアな教科書を指定したりするわけだが。

本書はそのような医学生のニーズのために企画されたThieme Illustrated Reviewシリーズのうちの解剖学の日本語版だ。『グレイ解剖学』よりコンパクトで、『グレイ』が厚さ5cmなのに対し、本書は2cmしかない。価格も安い。

使われている図のソースは『プロメテウス解剖学 コア アトラス』と同じThieme社のもので、品質には定評がある。豊富に使われていて、大きくレイアウトされている。筆頭の筆者も『プロメテウス解剖学 コア アトラス』と共通だ(訳者と日本語版出版社は異なる)。

図の総数は452点ある。『ネッター解剖学アトラス 原書第5版』が531点なので、その85%になる。追加でイラストのアトラスを買う必要はないかもしれない。逆に、教科書に『グレイ』、アトラスの代わりにこれを使うこともできるかもしれない。(いずれも実証例はまだないが。)

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プロメテと同じ図がたくさん使われている

ドイツの解剖学者の書いた『プロメテウス』三分冊と、米国の解剖学者による『グレイ』とを併用するとき、用語や概念に少し差違があって戸惑うことがある。本書の筆者は米国の解剖学者だから、解剖学の骨子は米国のものだ。日本の通念と差違のある点については、監訳者の注がそれを補っている。

文章はコンパクトで高密度だ。全体に箇条書きになっている。米国によくあるUSMLE対策書、レビュー書の形式だ。本来の用途は、授業のスライド、プリント、他の教科書で学んだあとの復習や試験対策だ。しかし、実際にはこれを教科書に使って済まされることも多いらしい。

このようなハイイールドな教科書に共通することだが、実際に読むときに脳に入る情報密度が高い。書いてあることの大部分が重要で、強弱のリズムがない。普通の教科書なら読み飛ばしていそうな文にも、重要なポイントがあったりする。それをキツいと感じるかもしれない。ガシガシ暗記できるひとなら大丈夫だろう。(いずれ暗記がガシガシ必要になるのだろうが。)

本学の授業内容に比べ不足に感じられるポイントは少しだがある:

  • 画像解剖学が含まれず、横断図もない
  • 自律神経系の模式図で、中枢側から末梢まで一続きの線で描かれていて、節前線維・節後線維の区別がわからない
  • 関連痛が散発的にしか言及なく、収束説の説明も不十分(同じ髄節ではなく、同じ二次ニューロン;試験の答案なら4割くらい)
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本文は箇条書き

骨格筋の付着・神経支配・作用は表にまとめられている。

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箇条書き、イラスト、模式図、表で、コンパクトかつ高密度

所々に臨床関連事項がまとめられている。

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臨床関連事項がところどころに。誤解しやすいところなどには監訳者の注がある。

章末にはUSMLE形式の5択の復習問題がある。全部で181問ある。

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USMLE形式の復習問題。

まとめると:

  • 米国のフレームワーク
  • 高品質な解剖図がアトラスに匹敵する数ある
  • コンパクトで高密度な本文
  • 臨床関連事項を含む
  • 復習問題付き
  • 不足の部分はある