Grant’s Anatomy Lab トライアル

Grant’s Anatomy Labはオンラインの解剖学実習書。トライアルで短期試用中。

利点:

  • LWW社のアトラスからの図版があらかじめ追加されていて、相互参照の手間がない
  • 教員がコンテンツを追加・改変できる

欠点:

  • アノテーションの機能が限定的
  • オフラインで使うにはPDF版の画像が小さい
  • PDF版で日本語が文字化けする

内容はGrant’s Dissectorに準拠している。履修生はそれをウエブで閲覧する。パソコンのほか、タブレットやスマートホンでもみられる。

PDFをダウンロードすることもできる。図版はサムネールのまま出力されるので、PDFの有用性を下げている。事実上オンラインで使うほかないのではないか。

Grant’s Dissectorの図版に加えて、Grant’s Atlas of AnatomyLWW Atlas of AnatomyAnatomy: A Photographic Atlasの図版が追加されている。全部で約1,400の図版がある。書籍のGrant’s Dissectorではアトラスへの参照をたどるのが手間だが、それがない。

ただし、ネッターのAtlas of Human Anatomyの図版はない。ネッターは他社(エルゼビア)だからだろう。

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ブラウザで閲覧。これはiPadのSafari

 

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画像のサムネールをクリック/タップすると拡大。虫眼鏡のアイコンでさらに拡大表示

 

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Grant’s Atlas of Anatomyなどからの図版も追加されている

 

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拡大表示

 

アノテーション(書き込み)の機能はあるが限定的で、実用には遠い。履修者は作業ステップ(Step)ごとに短文でメモ(Notes)を追加できる。しかし本文上ではメモが追加されたことを判別できない。メモの小窓を表示させ、ステップ選択のメニューを選ばないといけない。マーカーを引くことはできない。

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メモ(Notes)を追加

 

教員は独自にコンテンツ(文章・画像)を追加/改変できる。

文章には日本語も入れられる。ただし、PDFに書き出すと日本語が文字化けした。

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文章を編集。左がブラウザ上の表示、右がPDF

 

図版を追加することもできる。サーバに用意されているLWWの画像から検索・選択して追加する。ユーザの画像も追加できる。

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LWWの画像を追加する。前鋸筋の翻転の記述のところに前鋸筋の図版を追加してみた

 

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教員の手持ちの画像を追加。卵円窩についての記述に発生学の教科書から卵円孔の図を追加した。出典:Larsen’s Human Embryology, 4e

 

一般に、電子教科書は、書籍に比べて可搬性、検索のしやすさ、相互参照のしやすさにすぐれている。Grant’s Anatomy Labもそれを実現している。

電子教科書でしばしば欠点になるのが、アノテーションのしにくさだ。解剖学の教科書はワークブックのように使い込まれることも多い。Grant’s Anatomy Labのアノテーションの実装は残念な出来だ。

電子教科書の閲覧性(ぱらぱらめくって斜め読みする感じ)の低さも、克服の難しい問題だ。表示を工夫してがんばるか(Kindleのマンガなど)、ある程度あきらめて構造化を推し進めるか(Inklingなど)。Grant’s Anatomy Labは後者のようだ。

オフラインの可用性も考慮すべき点だ。Grant’s Anatomy LabのPDF出力はこれを満たしているとはいえない。

電子教科書を教材として使うには、端末の画質が重要だ。iPadなどのRetina Displayで、コンテンツもそれに対応していれば、書籍の紙面より図や文字はきれいだ。Grant’s Anatomy LabもRetina Displayで美しくみえる。端末の機種選択で誤らないようにしたい。

参考:

米国コロンビア大学はiBooks上でインタラクティブな実習書を開発している。図版はオリジナルの写真と1918版のGray’s Anatomy(パブリックドメイン)の図。