グラント解剖学図譜 第7版

2015年3月に放送された「NHK プロフェッショナル 仕事の流儀 小児外科医・山髙篤行の仕事 恐れの先に、希望がある」の医師がいう:

手術をキメられるか、キメられないかっていういちばん大きな要因は、手術の前の準備。9割が手術前で決まっていて、手術は変な話、手術する前に終わっている

その準備に使われていたのが『グラント解剖学図譜』だった。原著第13版に対応する日本語版が2015年末に発行された。

グラント解剖学図譜』は歴史の長いアトラスだ。原著初版は1943年刊。ちなみに『グラント解剖学実習』の原著初版はこれに先んじる1940年。ネッター氏の本は1948年で、製薬会社の販促用パンフに使われた医療関係のイラストを集めたものだった。

その歴史を反映して、本書の解剖図には様々な時代の多数のイラストレーターの作品が使われている。初版からあり、この最新版でも最も多く使われているのが、原著者のGrant氏自身の作成した解剖標本を描いた彩色木炭画だ。精緻に剖出された標本が写実的に精密に描写されているので、その正確性には信頼を置ける(アトラスの比較:1, 2)。また、彩色ペン画や線画など、模式図も多く使われている。その多くは写実的な図と対応させて同じ紙面にレイアウトされていて、構造の論理的理解を助けている。

前胸壁

彩色木炭画が体表の写真と合わせて見開きで使われている。『グラント』初代イラストレーターChubb氏による木炭画に彩色したもの

胆肝膵

鉛筆画に彩色。Chubb氏に続いて『グラント』に加わったJoy氏によるもの

膵臓十二指腸

CGによるもの

総胆管・膵管

彩色線画による模式図

古い図が昔のまま使われているのではない。木炭画への彩色は後に加えられたもので、本版でも色調の再検討がなされたようだ。体幹の横断図ではもと背側を紙面の上に向けて描かれていたものが、CTやMRIに合わせて背臥位にされている(その証拠に作者署名がひっくり返っている)。本の構成に合わせて古い図を参考にして描き下ろされたのもある。

全体は局所解剖に沿って論理的に構成されている。さらに、『グラント解剖学実習』とともに企画されているからと思われるが、実習中に困ってしまいそうな場面が、本書だけで図になっていることも少なくない。

男性会陰

会陰の解剖図。下直腸動脈・神経の剖出は、この図が多いに助けになる

いまの解剖の授業のニーズに合わせた改良もなされた。各章の初めには体表解剖のための写真や模式図が使われている。医療画像は専用のアトラスほどではないが、解剖の授業で間に合わすには足る。

腹部CT

腹部CTの連続スライスが横断標本の写真とともに示される

腹部エコー

腹部エコーが模式図とともに示される

気管支鏡

気管支造影と気管支鏡像

神経などのまとめの図や表が豊富で、学習の役に立ちそうだ。臨床上の重要ポイントにもなるものもあり、解剖後もながく参考になるだろう。

肺区域

肺区域のまとめの図

腹部の自律神経

腹部内臓の自律神経系のまとめの図。内臓痛や脊損を理解するのに重要だ

女性骨盤リンパ

骨盤内臓のリンパ流路のまとめ。がんの診療では中心的な知識だ

図の解説が充実しており、記載は簡潔ながら、それを読むだけでも知識が増える。臨床関連の内容が青字で明示されている。

IMG_3025

図の解説。臨床事項が青地で明示されている

少し残念なのは価格。類書がいずれも1万円なので、もう少し安価ならよかった。

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